『初心者にこそ説明したい!音楽講座』が始まりした。
さて、まず最初に若干意地悪な質問になってしまいますが、下の図の音は何でしょう?
声に出して回答してください。
皆さん分かりましたか?普通は「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」と言ってしまいすよね。コンバスやボントロやってる人なら「ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド、ミ」と言うかもしれません。
けれど「分からない」が正解なのです。
という訳で、今回のテーマは『階名(かいめい)』についてです。音楽理論を学んでいく上で、階名は非常に重要な要素です。階名を理解することで、楽譜の読み方や音楽の演奏が一段とスムーズになります。それでは、さっそく始めましょう!
目次
五線譜に音部記号と調号がなければ音名が分からない
楽譜上の五線譜には、音部記号が付かない限り音の判別はできません。なので下記図のようにト音記号が付くとC,D,E,F,G,A,B,Cの音名となります。
さて、今しがた音名の表記で「C」「D」「A」としたのは理由があります。それは日本において音名には「米英式音名」、階名には「イタリア式音名」が使われるのが一般的だからです。
階名とは?

この新たに出てきた『階名』とは一体何でしょうか?
階名とは、音階の中で各音の『相対的な位置』、つまり音階上での順番や役割を表す名称のことです。
あれ…音名と何が違うんだ?と疑問に思いませんでしたか?確かに初心者には分かり辛いんですよね、音名と階名って…
音名 | 音の高さを表す名前(何があっても変わらない) |
階名 | 音の高さの順序に付けられた名前(楽譜表記は同じだが読み方が変わる) |
上記のように言葉で説明してみたものの、文章だけ捉えると「高さを表す」も「高さの順序」も、同じように聞こえますよね?
ト長調の階名ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドで解説
音名と階名の違いが分からず、あなたの頭の中は混沌の闇に迷い込み、どこを探しても『回答』と言う答えが見つからず、思考がぐるぐると無限に彷徨い続けるような、光すら届かぬ世界に陥ってしまいましたね?
階名ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドを音名C,D,E,F,G,A,B,Cで考えてみた場合の『階名とは音の高さの順序』というのは、たとえばCの次はDでCの全音分上の音、Dの次はEでDの全音分上の音、Eの次はFでEの半音分上の音、というような音の位置関係となります。
そして、調(キー)が変わると、ここではト長調になった場合で考えると、その調の主音『G』に基づいてド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドの音の位置関係が割り当てられます。その割り当てられた音の名前が階名となります
日本における音名と階名の使い分け
先ほども表記しましたが、もう一度言わせていただくと、日本においての音楽教育の中で音名と階名を使い分ける際に、音名には「米英式音名」、階名には「イタリア式音名」が使われるのが一般的です。これは日本独自の言語表記の使い分けとなり、他国の音楽教育とは少し異なります。
階名の楽譜表記ってあるの?
ハ長調(Cメジャー)の譜面であった場合は、音名のC,D,E,F,G,A,B,Cと階名のド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドは一致します。
これも若干ひねくれた考え方になるのですが、ハ長調の場合は音名も階名も同じです。なのでハ長調の楽譜で音名C,D,E,F,G,A,B,Cにたいして「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」と、口頭で答えても、どちらも音名であり階名でもあるので、特に問題がないのです(これが後にイタリア式表記で音名と階名が混同される問題に繋がりますが、一旦置いておきます)。
しかし、仮にト長調(Gメジャー)での譜面であった場合は、階名ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドを譜面に書いた場合は、G,A,B,C,D,E,F♯,Gの音名となります。
ただし、譜面上では調合が付いたからといって、音符が階名で読まれることはありません。仮にト長調の調号が付いた場合でも、譜面は音名で呼ばれるだけとなります。
下記図のようなト長調の譜面であった場合は、階名読みはされずに音名で「C,D,E,F♯,G,A,B,C」と呼ばれます。
階名はどこで使うの?

階名に関しては楽譜上で『階名として』表記されることはありません。では、どんな時に階名が使われるのでしょうか?
階名が使われるのは主に合唱やアンサンブルの練習、またピアノなどのソルフェージュにおいて階名唱法として用いられます。ソルフェージュとは、楽譜を正確に読み、音を聴き取って再現するための音楽基礎訓練のことです。特に階名唱法は、音の相対的な位置を把握するのに役立ちます。
蛇足ですが、同じ楽器でもギターではソルフェージュにおける階名唱法を学ぶことがないに近いです。ギターではピアノの鍵盤のように音が明確に配置されていません。なのでギターでは指板上で音を一目で把握するのが難しかったりします。
また、特にクラシックギターは他の楽器と合わせて演奏する機会が比較的少ないので、相対音感を重視するアンサンブルの場面が少ないのことも階名使用を遠ざける要因となっています。
音名でもイタリア式表記があるのは何故?
今回は一般的に日本では音名にはC,D,E,F,G,A,Bの英米式音名を、階名にはド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シのイタリア式音名を使っています、と解説させていただきました。
しかし、日本の音楽において、階名表記になった筈なのに、今だにイタリア式表記の音名が使われているのは何故でしょうか?歴史も交えて説明します。
軽い感覚で読んでくださいね。
矛盾
日本人、この場合は音楽を小中学校の授業でしか学んでいない人も含めた全ての人が音楽の話をする時、イタリア式音名であるドレミを使って話しますよね?実はこれには学校教育の歴史が関係していたりします。
歴史的背景
日本で音名としてイタリア式表記が使われている背景には、導入の経緯と学校教育上の利便性が大きく関係しています。
日本では、音楽教育が西洋の音楽理論を基に発展してきました。19世紀末から20世紀初頭にかけて、日本はドイツやフランス、イタリア、イギリス、アメリカから音楽理論を学びました。それぞれの国で使用されていた音名や階名は微妙に異なっていたため、日本の音楽教育に複数の方式が混在する結果になりました。
まず、明治時代に西洋音楽が日本に導入された際、日本は急速に西洋の音楽理論を取り入れました。その中でも、イタリア式の音階表示が音楽の基礎訓練として高く評価されました。そして、日本でもそれまでの日本式音名からイタリア式音名の表記に変わって行きます。特に「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」という表記は、音楽学習において効果的で、これが音名としても階名としても使われるようになってしまいました。
理由
理由は簡単でハ長調(Cメジャー)では音名と階名が一致するからです。これが小学校から始まる教育現場で、非常に便利であり、幼い子供でも理解しやすかったことが理由と言われています。
CメジャーではC音が「ド」、D音が「レ」と音名と階名が同じため、初心者が音階を学ぶ際に混乱せず、スムーズに学習できました。このため、教育現場ではハ長調でのイタリア式表記の利便性が黙認されました。そしてイタリア式表記は音名としても階名としても、そのまま黙認されたと言うのが実情です。
とは言え
イタリア式表記は音階の概念を学ぶ上でシンプルで親しみやすいという利点があります。日本の教育音楽においては、子供たちが音楽を学ぶ上で、音名としてのイタリア式表記が教育現場で広く使われるようになりました。
当時の教育関係者は西洋音楽理論をスムーズに導入するために、イタリア式表記を音名と階名の両方で採用することを黙認したとも言えます。これは、新しい音楽理論をできるだけ効率的に日本に取り入れ、音楽教育を近代化するための合理的な選択だったと言えます。
このようにして、日本の音楽教育においては、音名と階名の区別が曖昧なまま、イタリア式表記が音名としても階名としても使われ続ける結果となったのです。