音楽には、明るい曲や物悲しい曲がありますよね?
でも、どうして曲を聴いただけで「明るい」とか「悲しい」と感じるのでしょうか?
実は、それには音楽の背後にある「調性」が大きく関わっています。
調性とは一体何なのか、そして音楽にどのような影響を与えるのか。そんな疑問について解説します。
目次
調性とは?音楽における中心的な役割
私たちが普段耳にする音楽には、「明るく感じる曲」や「切なく響く曲」があります。この違いを生み出している要素の一つが「調性(Tonality)」です。
調性とは、楽曲における音の中心(主音)を決定し、それに基づいて音楽全体を構築する仕組みです。
次に代表的な調性である長調と短調について解説します。
長調とは?
長調(メジャーキー)は、明るく快活な印象を与える響きが特徴です。希望や幸福感を表現する楽曲によく使われます。
例えば、J.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 前奏曲とフーガ ハ長調 BWV 846」は、穏やかでシンプルな響きが特徴的な名曲で、多くの人に親しまれています。
長調は蝶々(ちょうちょう)が花の間を舞うような明るさと軽やかさを持つから長調(ちょうちょう)、と覚えるとイメージしやすいでしょう。

「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 前奏曲とフーガ ハ長調 BWV 846」は、ハードロックではレインボーのワイスハイムにて、最後の方に出てくるフレーズで使われています。
短調とは?
短調(マイナーキー)は、落ち着いた雰囲気や哀愁を感じさせる響きが特徴です。悲しみや内省的な感情を表現する楽曲でよく使われます。
例えば、J.S.バッハの「トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565」は、深い感情と荘厳さを感じさせる作品で、短調の魅力をよく表しています。
短調は丹頂鶴(タンチョウ)が冬空を背に佇むけ物悲しく鳴くので短調(たんちょう)、と覚えると良いでしょう。

「トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565」ですが、作曲者や曲名は知らなくとも、あまりも有名なフレーズなので、聞いたことがない人はいないのではないでしょうか?
その印象的なフレーズは様々なアーティストが楽曲の中で引用し、嘉門達夫の曲で使われているインパクトのあるフレーズとなります。
バッハの楽曲名の後にはBWVが付けられます。「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 前奏曲とフーガ ハ長調 BWV 846」であれば、これはBWV 846にあたります。
このBWV(Bach-Werke-Verzeichnis)とは、「バッハ作品目録」のことで、1950年に音楽学者ヴォルフガング・シュミーダーによって作成されました。これはバッハの膨大な楽曲を体系的に整理した目録であり、各楽曲には識別のための番号が付けられています。
作曲順ではなく、教会カンタータ(礼拝用の声楽曲)や鍵盤楽曲などのジャンルごとに分類されているのが特徴で、約1000曲以上が収録されています。
他の作曲家にも様々な作品目録がありますが、バッハの楽曲についてはすべてこのBWVで整理されています。
画像を表示
調性と音階の関係
調性は「音階(スケール)」という音の並び方に基づいています。
音階とは、音楽理論において特定の規則に従って音を順序よく並べた構造のことを指します。この音の並びは、文化や音楽ジャンルごとに特徴的であり、楽曲のメロディやハーモニーを形作る基盤となります。
例えば、西洋音楽で用いられる長音階や短音階は、楽曲に明るさや哀愁を与える基本的な音の組み合わせです。
また、民族音楽では五音音階などがよく使用され、地域独特の響きを生み出します。音階の選択により、音楽の雰囲気や感情表現が大きく変化する点が特徴です。
今回は音階の中でも代表的なメジャースケールとナチュラルマイナースケールを、ドから始める例で考えてみたいと思います。
メジャースケール(長音階)
- 音階:ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド
- 全音と半音の並び:全音 – 全音 – 半音 – 全音 – 全音 – 全音 – 半音
この並び方により、明るく快活で軽やかな響きが生まれます。例えば、「ド」から始まるメジャースケールでは、ミからファ、シからドの間が半音、それ以外の音は全音です。
このバランスが長調特有の明るさと安定感を生み出しています。
ナチュラルマイナースケール(自然短音階)
- 音階:ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド
- 全音と半音の並び:全音 – 半音 – 全音 – 全音 – 半音 – 全音 – 全音
ナチュラルマイナースケールは、長調と比較して3度(ミ♭)、6度(ラ♭)、7度(シ♭)の音が半音低くなっています。この並びが、物悲しさや静けさを感じさせる原因です。
メジャースケール(長音階)は、全音と半音の並びが常に一定のシンプルな音階で、「メジャースケール」という一つの形で統一されています。
一方で、マイナースケール(短音階)には次の3つの派生形があります。
1. ナチュラルマイナースケール(自然短音階): 短調の基本形。
2. ハーモニックマイナースケール(和声的短音階): 7度を半音上げた形で、和声(コード進行)に用いられる。
3. メロディックマイナースケール(旋律的短音階): 6度と7度を半音上げ、旋律を滑らかにするための形。
このように、マイナースケールは表現や用途に応じて音階が変化する特徴があります。
長調と短調の違いは全音と半音の並びにある
長調(メジャースケール)と短調(ナチュラルマイナースケール)の違いは、全音と半音の配置にあります。長調は「全音が多く、明るい響き」、短調は「半音が多く、暗く切ない響き」が特徴です。
これは、全音と半音の間隔が音の「緊張感」と「解放感」を生み出すためです。
長調では、全音の間隔が多く含まれることで、音の流れが滑らかで安定感のある印象を与えます。
一方、短調では半音の間隔が増えることで、音が近づきすぎて緊張感や不安定さが生じ、それが切なさや哀愁を感じさせる理由となります。
このように、全音と半音の並びが変わることで、音楽の雰囲気や感情に大きな影響を与えるのです。
調性が楽曲に与える影響
調性が楽曲に与える影響は大きく、音楽の雰囲気や感情の伝え方を左右します。ここでは、調性がどのような役割を果たすのかを見ていきましょう。
楽曲の雰囲気を決定する
調性は楽曲全体の雰囲気を形作ります。
同じ曲でも、長調であれば明るい印象に、短調であれば感傷的な印象に変化します。
「きらきら星(原題:Ah! Vous dirais-je, Maman)」で説明してみましょう。
長調のきらきら星は世間一般で知られているきらきら星となります。Cメジャーでの演奏となります。
長調のきらきら星
この曲を短調にするとどうなるでしょうか? ミとラとシをフラットさせたCマイナーでの演奏です。
短調のきらきら星
このように同じ曲であっても、短調になると曲の雰囲気がガラリと変わってしまいます。
調性が楽曲の統一感を生む
調性は楽曲全体の構造を統一し、リスナーに「まとまり」を感じさせます。特定の調性に基づくメロディやコード進行が一貫して使われることで、自然な流れを生み出します。
調性を知ることで音楽の世界が広がる
音楽には「長調」や「短調」だけでなく、特定の調性を持たない無調(atonality)と呼ばれるスタイルもあります。
しかし、音楽の多くは「長調」や「短調」を基盤にして作られています。まずはこれらの基本をマスターしましょう。そして、長調や短調と言った基本をマスターすることによって、その後に続く色々な調性や音階が理解できるようになっていくのです。
おしまい