前回の記事では、iPhone Duoの基本的な機能やiPadとの違い、そして「なぜAppleはiPadではなくiPhoneを折りたたんだのか」という疑問について考えました。そこで次に気になるのが、iPhone Duoは単に従来のiPhoneを折りたためるようにした製品なのか、それともスマートフォンの使い方そのものを変える製品なのか、という点です。
折りたたみスマートフォンは、Appleが初めて製品化するものではありません。それでも、AppleがiPhone Duoを発売することには、単なる新機種の追加を超えた意味があるのでしょうか?
現在のスマートフォンは、ほとんどが一枚のディスプレイを備えた板状の端末です。
私たちは長い間この形を見てきたため、「スマートフォンとはこういう形をしたものだ」と無意識のうちに考えるようになっていました。
しかし、現在では当たり前になっているものでも、登場した当時には「本当に必要なのか」「今までの方法で十分ではないか」と考えられていた例は少なくありません。
第2回となる今回は、iPhone Duoが単なる「折りたためるiPhone」で終わるのか、それとも将来的にスマートフォンの形や使い方そのものを変える可能性があるのかについて、過去の技術変化と比較しながら考えていきます。
※本記事は2026年10月23日の一般発売前に公開されている情報をもとにしています。そのため、実際の普及状況や長期的な評価については判断していません。
14:AppleはiPhone Duoで新しいデバイスの使い方を提案しているのか?
前回の記事では、iPhone Duoを開いた状態での画面表示や、複数のアプリを同時に利用する方法、内側と外側のディスプレイを利用した撮影、本体を半開きにして使用する方法などを紹介しました。

こうした機能だけを見ると、iPhone Duoは従来のiPhoneより大きな画面を利用できる高性能モデルのようにも見えます。
しかし、ここで考えてみたいのは個々の機能そのものではありません。
iPhone Duoの登場によって、私たちがスマートフォンを使用する場面そのものが変わる可能性があるのかという点です。
Appleが提案するのは「機能」なのか「使い方」なのか
AppleはiPhone Duoを、折りたたみ式の画面によって、従来のスマートフォンとは異なる使い方ができる製品として紹介しています。画面を開けば表示領域が広がり、閉じれば通常のスマートフォンに近い大きさで持ち歩くことができます。
ここで重要なのは、「大きな画面を利用できること」そのものが新しいわけではないという点です。
大きな画面が必要であれば、これまでもiPadなどのタブレットを使用することができました。

しかし、今回のiPhone Duoでは、大画面化に合わせたiOSのアップデートによって、画面を左右に分割し、2つのアプリをそれぞれ独立して操作できるSplit Viewが新たに搭載されました。
注目すべきなのは、複数のアプリを同時に利用するという考え方ではなく、これまで別々の端末を使い分けていた場面が、一台のスマートフォンで行えるようになったことのです。
外出中は閉じた状態で通常のiPhoneとし、Webサイトや資料を大きな画面で確認したいときには開く。動画を見るときには大きな画面を利用する。複数のアプリを確認したいときには画面を広げる。
こうした使い方が日常的になれば、「スマートフォンは常に同じ大きさの画面を使用する端末」という考え方自体が変わる可能性があります。
ガラケー時代の折りたたみ携帯電話
携帯電話を折りたたむという考え方そのものは、ガラケーの携帯電話が主流だった時代に数多く存在していました。
ガラゲーとはガラパゴス携帯の略で、物理ボタンが特徴で、アプリ追加ではなくあらかじめ入った機能を使う携帯電話のことです。
ガラゲーでは二つ折りの内側にメインディスプレイを備え、機種によっては外側に時刻や着信情報などを確認するための小さなサブディスプレイも搭載していました。
ただし、当時の折りたたみは、現在の折りたたみスマートフォンとは目的が異なります。
ガラケー時代では、本体をコンパクトにして持ち運びやすくすることが主な目的であり、端末を開いたからといって画面そのものが大きくなるわけではありませんでした。

京セラが実現した2画面スマートフォン
その後、スマートフォンの時代になると、「開くことで画面領域を広げる」という考え方を持った製品が登場します。その代表的な初期例の一つが、2011年に京セラが米国で発売した「Kyocera Echo」です。

Kyocera Echoは3.5インチのタッチディスプレイを2枚搭載したAndroidスマートフォンで、2つの画面をヒンジ(ヒンジ:2つの部品をつなぎ、開閉や回転を可能にする接続部分)で接続していました。閉じた状態では通常の1画面スマートフォンとして使用し、本体を開くと2画面を利用できます。

片方の画面でメールを確認しながら、もう一方でWebサイトを閲覧するといった使い方のほか、2つの画面を合わせて4.7インチ相当の大きな表示領域として利用することもできました。
つまり、「スマートフォンを開くことで表示領域を広げる」という発想自体は、現在の折りたたみスマートフォンより前から存在していたことになります。
しかし、Kyocera Echoのような2画面スマートフォンは、2枚の独立したディスプレイをヒンジでつないでいるため、中央には物理的な境界が残ってしまいました。

一枚の画面を折り曲げるスマートフォン
そして技術の進化は、現在の折りたたみスマートフォンでは、一枚の大きなディスプレイそのものを折り曲げられるようになりました。この折り目のない画面によって、写真や動画、Webサイト、地図などを一枚の画像として表示できるようになったのです。
OLED(有機EL)が画面を曲げられる理由
現在の折りたたみスマートフォンを成立させている重要な技術の一つが、OLED(有機EL)ディスプレイです。

OLED(organic electro-luminescence)は画素そのものが発光するため、液晶ディスプレイのように画面全体を後ろから照らすバックライトを必要としません。
そのため、ディスプレイ全体を薄く構成しやすく、柔軟な基板と組み合わせることで、画面そのものを曲げられる構造を作ることができます。
ただし、OLEDなので何でも折りたためるわけではありません。
一般的なスマートフォンでは、ディスプレイを平らな状態で使用することを前提に設計できますが、折りたたみ端末では、画面を支える基板や保護素材まで含めて曲げられる構造にしなければなりません。しかも、一度だけ曲げられればよいのではなく、日常的な開閉を繰り返しても表示機能を維持する必要となります。
折りたたみディスプレイを支える多層構造
折りたたみディスプレイはOLED以外に、表示を行う層、タッチ操作を検出する層、接着層、保護層など、複数の材料を重ね合わせて構成されています。
そのため、それぞれの層が繰り返し曲げられても正常に機能し続け、剥離や亀裂、表示不良などが起きにくい構造となっています。

折りたたみ画面を保護する表面素材にガラス?
さらに難しいのが、画面を保護する表面素材です。通常のスマートフォンでは、画面を保護するために比較的硬いガラスを使用できます。
しかし、折りたたみスマートフォンでは、その保護素材自体もディスプレイと一緒に曲がらなければなりません。そこで使われている技術の一つがUTG(Ultra Thin Glass)です。

UTGは、名前の通り非常に薄く加工されたガラスです。ガラスを薄くすることで、曲げやすくすることができます。
一般的にガラスは硬く、曲げようとすると割れてしまうものです。そのため、「ガラスが曲がる」と言われても、なかなかイメージできないかもしれません。しかし、ガラスは非常に薄く加工することで、曲げたときに生じるひずみを小さくでき、一定の範囲内であれば割れずに曲げられるようになります。
ただし、薄くすれば曲げやすくなる一方で、傷や衝撃に対する強度を確保することが難しくなります。つまり、「曲げやすくするためには薄くしたい」一方で、「画面を守るためには丈夫にしたい」という相反する条件を両立させる必要があります。
この問題を解決するために用いられているのが、ガラスの化学強化処理や保護フィルムを組み合わせる技術です。
化学強化処理とは、ガラスの表面に圧縮する力を生じさせることで、ひび割れが発生したり、広がったりすることを抑える技術です。これによって、非常に薄いガラスでも一定の強度を確保できるようになります。
さらに、UTGに保護フィルムを重ねることで、外部から加わる衝撃を緩和し、ガラスが破損する危険性を抑えています。
つまり、単純にガラスを薄くして曲げられるようにしたのではなく、薄型化による曲げやすさと、化学強化処理や保護フィルムによる耐久性を組み合わせることで、折りたたみ画面を実現しているのです。
ただし、これによって通常のスマートフォンと同じ強度が得られるわけではありません。折りたたみ画面は、その構造上、強い圧力や局所的な衝撃に対して注意が必要であり、UTG以外にも多くの技術や工夫が取り入れられているのです。
折りたたみディスプレイを支えるヒンジの仕組み
折りたたみスマートフォンでは、ディスプレイをどのように曲げるかが重要になります。
OLEDディスプレイは柔軟性を持っていますが、折り曲げる半径が小さくなるほど、画面を構成する各層に大きな負担がかかります。
そのため、折りたたみスマートフォンでは、単に本体を開閉するだけでなく、ディスプレイにかかる負担を抑えるヒンジの設計が必要になります。
その代表的な技術の一つが、水滴型ヒンジです。

水滴型ヒンジとは、スマートフォンを閉じた際に、ディスプレイの折り曲げ部分が水滴の断面に似た形になるよう設計されたヒンジです。
外から見ると本体は二つ折りになっていますが、内部ではディスプレイを鋭く折り曲げるのではなく、折り目の部分に空間を確保し、緩やかなカーブを描くように収納します。
一般的な水滴型ヒンジでは、開閉に合わせて内部の支持部品が動き、ディスプレイの曲がり方を制御します。
これによって折り曲げ部分への負担を軽減し、画面中央に生じる折り目を目立ちにくくする効果も期待できます。
つまり、水滴型ヒンジは単に本体を折りたたむための部品ではなく、ディスプレイそのものを保護する役割も担っているのです。
iPhone Duoのヒンジも同じ?
では、iPhone Duoではどのようなヒンジが採用されているのでしょうか。
Appleの公式発表によると、iPhone Duoのヒンジは100以上の部品で構成されており、本体の開閉を正確に制御する仕組みが採用されています。
本体を開いた際にはディスプレイの中央部分を支えて平らな状態を保ち、閉じた際には内蔵されたマグネットによって、しっかりと閉じた状態を維持します。さらに、ヒンジカバーには3Dプリント技術が用いられ、内部には構造を補強するための部品も組み込まれています。

ただし、Appleはヒンジの構造や役割について説明しているものの、一般に水滴型と呼ばれる構造を採用しているかどうかまでは明示していません。
それでも折りたたみディスプレイを保護しながら、開閉を正確に制御するという基本的な目的は共通しているのです。
iPhoneとiPadの役割は今後変わるのか?
iPhone Duoの登場によって、もう一つ気になるのがiPhoneとiPadの関係です。
Appleはこれまで、iPhone、iPad、Macという異なる製品を、それぞれの特徴を活かしたデバイスとして展開してきました。
もちろん、それぞれの用途には重なる部分があります。しかし、画面サイズやOS、操作方法、対応するアプリや周辺機器などによって、製品ごとに得意とする作業には違いがあります。
iPhone Duoは、その境界の一部を曖昧にする可能性があります。
閉じているときには通常のiPhoneに近い感覚で使用しながら、開けばiPad(正確にはiPad mini)に近い大きさの表示領域を利用できます。
読書、Web閲覧、動画視聴、資料の確認といった用途では、これまでiPadを使用していた場面の一部をiPhone Duoが担う可能性もあります。
しかし、だからといってiPhone DuoがiPadを完全に置き換えるとは考えにくいでしょう。
iPhone DuoはあくまでiOSを搭載するiPhoneです。iPadOS専用のアプリや、iPad向けの周辺機器、大きな画面を前提とした作業環境などは、依然としてiPadを利用する理由になります。
つまり、iPhone Duoによって変わる可能性があるのは、iPadそのものの必要性ではなく、iPhoneとiPadをどのように使い分けるかという点です。
これまでiPadを必要としていた作業の一部を、普段持ち歩いているiPhoneだけで済ませられるようになるとすれば、両者の役割も少しずつ変化していくのかもしれません。

iPhone Duoはスマートフォンの標準値を変えるのか
ここからは少し視点を広げて考えてみます。
iPhone Duoが本当に興味深い製品になるとすれば、それは単に大きな画面を持つiPhoneだからではありません。
「スマートフォンとは一枚の板状の端末である」という形そのものに「画面を開いて使う」という利用方法を加えたスマートフォンの標準値にすると言うことです。
このような「標準値」の変化は、これまでにもさまざまな分野で起きてきました。
最初から現在の標準値へ変化したわけではなく、既存の技術が新技術へ置き換わり、その後さらに使い方や製品そのものの役割まで変化するという段階を経ていました。
もちろん、これから紹介する過去の変化が、折りたたみスマートフォンも同じように普及する証拠になるわけではありませんが、過去の例を見ていきたいと思います。
初代iMacはフロッピーディスクドライブを搭載しなかった
その分かりやすい例の一つが、1998年に登場した初代iMacです。

当時、フロッピーディスクはパソコンでデータを保存したり、別のパソコンへデータを移したりするために広く使われていました。そのため、パソコンにフロッピーディスクドライブが搭載されていることは、ごく当たり前のことと考えられていました。

ところがAppleは、初代iMacにフロッピーディスクドライブを搭載しませんでした。現在から見れば珍しいことではありませんが、当時としては、それまで普通に使用していた記録媒体を突然使えなくする大胆な変更でした。
ただし、初代iMacが登場した時点で物理メディアそのものがなくなったわけではありません。その後もCDやDVDを読み書きするための光学ドライブは、多くのパソコンに長く搭載され続けました。
つまり最初の段階では、「フロッピーはなくなっても、CDやDVDは必要」という状態だったわけです。

しかし、その後さらに環境は変化しました。ソフトウェアはインターネットからダウンロードすることが一般的になり、データの受け渡しにはUSBメモリや外付けストレージ、クラウドサービスなどが使われるようになりました。
その結果、現在ではMacだけでなく、WindowsパソコンでもCDやDVD用の光学ドライブを内蔵しない機種が一般的になったのです。

そして必要な場合は、USB接続の外付けドライブを利用する形が主流となって行きました。
最初は「フロッピーディスクが不要になった」という結果が、長い時間をかけて「そもそもパソコンに物理メディアを読み込むためのドライブが不要になった」というところまで変化したのです。
音楽はCDからサブスクリプションへ変わった
音楽の聴き方も、大きく変化してきました。かつてはレコードやカセットテープ、CD、MDなどの物理メディアを購入し、自分が所有している音源を再生することが一般的でした。

その後、パソコンや携帯音楽プレーヤーが普及すると、CDから楽曲を取り込んだり、音楽ファイルを購入して端末へ保存したりする方法が広がりました。この時点で音楽は、CDやMDなどの物理メディアから、端末に保存する音楽ファイルへと移行しましたが、「購入した音源を自分で所有して聴く」という基本的な考え方は残っていました。

しかし現在では、SpotifyやApple Musicなどのサブスクリプション型サービスを利用し、楽曲データそのものを所有しなくても音楽を聴くことができるようになったのです。

CDを購入する時代から、CDをパソコンへ取り込む時代、音楽ファイルを購入する時代を経て、現在ではサービスへアクセスするだけで膨大な楽曲を聴けるようになりました。
ここで変化したのは、記録媒体だけではなく、「音楽は購入して所有するもの」という考え方そのものが変化したとも考えられます。
最初はCDに収録された音楽をファイルとして保存するようになっただけでしたが、その先では「音楽データを自分で所有する必要があるのか」というところまで進んだわけです。

紙の地図からカーナビ、そしてスマートフォンへ
自動車のナビゲーションも大きく変化してきました。以前は知らない場所へ車で出かける場合、紙の道路地図や地図帳を車内に置き、現在地と目的地までの道を確認しながら走ることが一般的でした。

その後、GPS(Global Positioning System:人工衛星からの電波を利用して、現在地を測定する仕組み)を利用した専用カーナビが登場すると、現在地を画面上に表示し、目的地までのルートを自動的に案内してもらえるようになります。

さらにスマートフォンの地図アプリやナビゲーション機能が進化すると、専用カーナビを使用せず、スマートフォンだけで目的地まで移動することも珍しくなくなりました。

つまり、「紙の地図からデジタルのカーナビへ」という変化だけで終わらず、その先では「道案内のために専用のカーナビを用意する必要があるのか」というところまで変わってきたことになります。
「写真を撮るならカメラ」という常識も変わった
写真も同じような変化を経験しています。以前は写真を撮りたければ、カメラを持っていく必要がありました。一般的なフィルムカメラのほかにも、手軽に撮影できる「写ルンです」などのレンズ付きフィルムや、撮影後すぐに写真を確認できるポラロイドカメラなど、用途に応じてさまざまな製品が使われていました。

その後、デジタルカメラが普及すると、写真を記録する方法そのものが大きく変化しました。フィルムを使わずに画像をデジタルデータとして保存できるようになり、撮影した写真をその場で確認したり、パソコンへ取り込んだりすることも簡単になりました。

しかし、この段階ではまだ「写真を撮るためにはカメラを使う」という考え方は基本的に変わっていませんでした。フィルムがデジタルデータへ置き換わっても、写真を撮るための専用機器が必要だったからです。
ところが、携帯電話にカメラが搭載されると、状況は変わり始めます。それまで写真を撮るために持ち歩いていたカメラの機能が、日常的に使う携帯電話の中へ取り込まれたのです。

さらにスマートフォンが普及し、カメラ性能が向上すると、その変化は一段と進みました。現在では日常的な写真撮影であれば、専用カメラを持ち歩かず、普段から持っているスマートフォンだけで済ませる人も多くなっています。

もちろん、一眼レフやミラーレスカメラなどの専用カメラには現在でも大きな価値があります。しかし、「写真を撮るためにはカメラという別の機械を持っていかなければならない」という前提は、以前ほど絶対的なものではなくなりました。
ここでも、最初はフィルムをデジタルデータへ置き換える変化でした。その先で、カメラの機能そのものが携帯電話やスマートフォンの中へ取り込まれ、「専用機を持ち歩く必要があるのか」という部分まで変化したわけです。
映像はビデオテープ・LD・VHD・DVD・Blu-rayから動画配信へ変わった
映画やドラマの視聴方法にも、似た変化が起きています。かつて家庭で映画を見る場合、VHSやベータマックスなどのビデオテープを購入したり、レンタルビデオ店で借りたりする方法が一般的でした。ビデオテープは映像を磁気テープに記録する方式で、家庭でテレビ番組を録画したり、好きな映画を繰り返し楽しんだりできるようになりました。

その後、LD(レーザーディスク)やVHD(Video High Density)といった映像ディスクが登場します。LDはレーザー光を利用して映像を読み取る方式、VHDは静電容量の変化を利用して映像を読み取る方式でした。どちらもビデオテープとは異なる技術を採用しており、特にLDは画質の高さから映画ファンなどに支持されました。しかし、価格や機器の普及状況などの問題もあり、VHSなどのビデオテープを完全に置き換えることはありませんでした。

1990年代になるとDVDが登場します。DVDはLDよりも小型で取り扱いやすく、デジタル方式による映像と音声の記録が可能になりました。さらに、メニュー画面やチャプター選択などの機能も備え、家庭用の映像メディアとして広く普及していきます。

そして2000年代にはBlu-rayが登場します。DVDよりも大容量のデータを記録できるようになり、フルハイビジョン映像などを高画質で楽しめるようになりました。大画面テレビの普及とともに、家庭でも高精細な映像を視聴できる環境が整っていきます。

このように、ビデオテープからLD・VHD、DVD、Blu-rayへの変化は、映像の記録方式や画質、使いやすさの面で大きな進歩でした。しかし基本的には、「映像が記録された物理メディアを入手し、それを専用の再生機に入れて見る」という構造は変わっていませんでした。
ところがNetflixなどの動画配信サービスが普及すると、この前提そのものが変わります。見たい作品をインターネット経由ですぐに再生できるようになり、動画配信を利用する場合には、ディスクを購入したり、レンタル店へ行ったりする必要がなくなりました。

つまり、ビデオテープからLD・VHD、DVD、Blu-rayへと続いた変化は、主に「映像を記録・再生する媒体や技術の変化」でした。
しかし、その後の動画配信への移行では、「映像を見るためには物理的なメディアが必要」という考え方そのものが変わったのです。

こうしてフロッピーディスク、音楽、カーナビ、カメラ、映像の変化を並べてみると、一つ共通していることがあります。それは、最初の変化が必ずしも最終的な形ではなかったということです。
「次の標準」とは?
ここまで紹介してきた技術の変遷には、ある共通点があります。お気づきでしょうか。
かつて音楽を聴くには音楽プレーヤー、目的地までの道順を調べるにはカーナビ、写真を撮るにはカメラ、映像を楽しむにはテレビやビデオデッキなど、それぞれ専用の機器が必要でした。
しかし現在では、これらの機能の多くがスマートフォン一台に集約されています。

それぞれ異なる道筋をたどって進化してきた技術が、結果として一つの機器に集まったのです。
そして、ここでもう一つ注目したいことがあります。それは、こうした変化が始まった当初から、誰もが現在の姿を予想できていたわけではないということです。
例えば、音楽がCDからデジタルファイルへ移行した時点では、「音楽を購入して所有する」という考え方は残っていました。しかし、その後サブスクリプション型サービスが普及したことで、音楽の楽しみ方そのものが変化していきました。
同様に、写真や地図、映像などの分野でも、最初は従来の技術を新しい技術へ置き換えることから始まり、その後、専用の機器や物理的なメディアを必要としない方向へと変化していきました。
つまり、技術の進化は一度に完成形へ到達するのではなく、一つの変化をきっかけに新しい使い方が生まれ、それまで必要だと思われていた道具や仕組みそのものが変化していき、そしてスマホの中に収まって行ったのです。
新しい技術が登場した当初は、「今までの方法で十分ではないか」「本当にこちらが主流になるのか」「わざわざ変える必要があるのか」という疑問もあったでしょう。また、新しい製品や技術の最初の形だけを見て、将来を判断するのは難しいのです。

このように、さまざまな機能を取り込んできたスマートフォンがiPhone Duoとして、スマートフォンの新たな標準になるのでしょうか?
iPhone Duoが変える可能性があるのは「スマートフォンの形」なのか
これまで、さまざまな機器の機能がスマートフォン一台に集約されてきました。では、そのスマートフォン自体が、今度は形を変えるとしたらどうでしょうか。
現在では、一枚のディスプレイを備えた板状のスマートフォンが事実上の標準となっています。しかし、iPhone Duoのような折りたたみスマートフォンが普及すれば、「普段は小さく持ち歩き、必要なときだけ画面を広げる」という使い方が、新たな選択肢として定着する可能性があります。
ただし、最終的に新しい標準になるかどうかを決めるのは、メーカーではなく利用者の行動です。
数年後、iPhone Duoが一部の利用者向けの特殊な製品として振り返られるのか。それとも、「スマートフォンは一枚の板状の端末である」という常識が変わり始めた時期の製品として評価されるのか。
では、こうした将来の可能性とは別に、iPhone Duoを実際に購入する立場で考えた場合はどうでしょうか。
どれほど新しい使い方ができるとしても、購入を判断するうえで避けて通れない問題があります。
それが「価格」です。
次回は、これまで詳しく触れてこなかったiPhone Duoの「価格」に焦点を当てて考えていきたいと思います。
