ローカットしろと言われても、いったい何Hz以下を落とせばよいのでしょうか?
この回では、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第11問】を題材に、イコライザーで超低域を整理するときの「カットすべき目安の周波数」を押さえていきます。
人間にはほぼ聴こえないけれど、ミックスやPAでは厄介になる超低域を、ハイパス・フィルター(ローカット:一定周波数より下を削る)でどこまで切るのが妥当なのかがテーマです。この問題をきっかけに、聴覚特性と実務的なセッティングのバランス感覚を身につけておきましょう。
それでは問題を解いてみましょう!
目次
過去問|2025年 ステップⅢ 第11問
今回の問題は、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第11問】をベースに、学習用として一部アレンジして出題しています。
この試験は「定番テーマ」が形を変えて何度も出題される傾向が強く、過去問を押さえることが合格への最短ルートと言えます。
問題=答え|暗記用ワンフレーズ
超低域カットの基準周波数=20 Hz以下
※人間にはほぼ聴こえない帯域だけ整理
対話講義(Q&A)|超低域カットとハイパスEQ
サウンド先生
まずタカミックス君、ヘルツと音程の関係を復習してみよう。
タカミックス
ヘルツの数値が小さいほど音程は低く、数値が大きいほど音程は高くなる──で合ってますよね?
サウンド先生
その通り。
タカミックス
ヘルツと音程の確認ができたところで、今回の問題についてです。
イコライザーの使い方で「まず超低域をハイパス・フィルター(ローカット:一定周波数より下を削る)でカットしろ」ってよく聞くんですけど、具体的にどこから下を切ればいいのかがイマイチ分からないんですよね。
サウンド先生
音楽制作においてハイパス・フィルターのカットオフ周波数(そこを境に低域を減衰させ始める周波数)で、ミックスのキャラクターにかなり違いが出てくる。今回の問題が言っているのは「とりあえず最初に整理する超低域」の話で、その基準にしているのが20Hz以下なんだ。
タカミックス
20Hzって「1秒に20回振動」って言われても、正直イメージが湧かないんですよね。
それって、体感でいうとどんな感じなんですか? “音程”として聴こえるものなんですか?
サウンド先生
じゃあ、ここは理屈だけじゃなくて、20Hzと88鍵ピアノの最低音を実際に鳴らして聴いてみよう。ただし20Hzのような超低域は、聴こえにくいわりに再生機器に負担がかかる場合がある。
だから安全側に倒して、今回はカウントを入れた後に20Hzを-30dBで約10秒だけ鳴らす。
カウントの後に20Hzのサイン波(低周波トーン)が流れます。
音量を上げると、20Hzは“音”というより振動・圧として感じられる場合があります。再生は小音量から。スピーカー/イヤホンの仕様によっては再生できない、または機器に負荷がかかることがあります。
タカミックス
いや、カウントの後に20Hzで鳴ってるのですか?何も聞こえないのですが?
サウンド先生
それは当然だ。20Hzのボリュームをメチャクチャ上げれば「ブォーン」と低く唸る音が聞こえてくるが、ここはコンサート会場ではないからね。まず、これを“音程”としてはほぼ感じられないはずだ。
次に対比として、88鍵ピアノの最低音も聴いてみよう。一般的な88鍵ピアノの最低音はA0(ラ)で、周波数は27.5Hzだ。
ピアノのA0音が流れます(カウントなし)。
A0は理論値では27.5Hzですが、ピアノ低音は倍音や共鳴の影響が大きく、音源(ピアノの種類)や再生環境によって音程感は変わります。
タカミックス
今度は低いピアノの音が聞こえました。
サウンド先生
今回は分かりやすくピアノでの最低音A0で出してみた。
だが実際にサイン波(低周波トーン)で27.5Hzを流してみると音と言うよりも唸りのように聞こえるんだよ。
では今度も-30dBで27.5Hzのサイン波(低周波トーン)が流すよ。
カウントの後に27.5Hzのサイン波(低周波トーン)が流れます。
27.5Hzは若干20Hzよりも“音”を感じますが、それでも再生は小音量から。スピーカー/イヤホンの仕様によっては再生できない、または機器に負荷がかかることがあります。
タカミックス
こんどは少し聞こえます!唸りみたいな音が!
サウンド先生
おなじ27.5Hzでもピアノ音の27.5Hzとは全然違うだろ?ピアノ音の場合は倍音やアタック成分のほうが目立って、かろうじて音程として聞こえるんだよ。
タカミックス
なるほど…
サウンド先生
正確に言うと、20Hzでもキックの一発や、低音が過剰な録音、ステージの揺れ、マイクスタンドの振動、風圧、空調の低い振動……そういうものが20Hz付近のエネルギーとして混ざることはある。
でもそれは、音程としてコントロールされた「20Hzの音」じゃない。
制作で問題になるのはむしろこっちで、
「音楽的な意味が薄いのに、ミックス全体のヘッドルーム(許容される最大レベルまでの余裕)やスピーカーのストロークだけ食う」
という“超低域のムダ”なんだ。
タカミックス
なるほど……。だから「20Hz以下を切る」なんですね。
サウンド先生
そう。今回の20Hzは整理対象になる“超低域そのもの”なので、制御しないと邪魔になりやすい帯域の代表なんだ。
詳しい解説
一問ずつ正解を覚えることも大事ですが、「なぜその選択肢を選ぶのか」という筋道を理解しておくと、別パターンの問題にも強くなります。
ここからは、対話講義で掴んだイメージを“用語と仕組み”で裏付けるパートとして、基礎は押さえた前提で少し技術寄りに整理していきましょう。
結論の整理
2025年 ステップⅢ 第11問の正解
20Hz以下
一言まとめ
聴こえない超低域だけをハイパスで整理し、音楽的な低音は残す。
なぜその答えになるのか(メカニズム)
イコライザーのハイパス・フィルターは、設定した周波数より下の帯域を傾斜を持って減衰させるフィルターで、スタジオ録音やPAでは、風や振動、ハンドリングなどで混ざりやすい不要な超低域(サブソニック)を整理する目的でよく使われます。
人間の可聴帯域はおおよそ20Hz〜20kHzとされ、20Hz以下の成分は音として知覚されにくく、主に床や建物の揺れ、マイクスタンドの振動、空調や電源由来のノイズなどが混入しやすい帯域です。
これらは耳には聴こえにくい一方で波形上の振幅が大きく、ヘッドルームを圧迫したり、コンプレッサーやリミッターを不要に動作させたり、スピーカーのコーンを無駄に大きく動かして音像をぼやけさせる原因になります。
一方、キックドラムやベースといった音楽的に重要な低音は30Hz〜数100Hzに分布しているため、ここを過度にカットすると曲の重心や迫力が失われてしまいます。
したがって、「音としてはほぼ聴こえないが、システムを無駄に動かすだけの超低域」を整理するという意図に最も適した設定が20Hz以下であり、1Hzや2Hzでは効果が乏しく、200Hzでは低音そのものを削り過ぎることになります。
今回の問題文が示しているのも、音楽全体のバランスを崩さずに不要な超低域だけをカットするという考え方であり、人間の聴覚特性と実務上の合理性を踏まえると、答えとして自然に導かれる数値は「20Hz以下」です。
他の選択肢が誤り(または優先度が低い)理由
- 1Hz および 2Hz
1Hz以下や2Hz以下は、一見「より下だけを切るので安全そう」に見えますが、実際にはほとんど意味のない設定です。1〜2Hzという超低周波数帯は、そもそも音楽信号としてほとんど存在せず、機器や環境ノイズももっと広い帯域にまたがっています。この範囲だけをカットしても、ハイパス・フィルターとしての実効的なノイズ低減にはほとんどつながりません。
- 200Hz
200Hz以下は、逆にカット範囲が広すぎる選択肢です。ここまで高い位置にハイパス・フィルターを設定すると、キックドラムの厚み、ベースの基音やローエンド、タムの胴鳴りなど、音楽的に重要な低域成分まで大きく削ってしまいます。結果として、音楽全体のバランスを崩しやすく、「超低域を整理して良い結果を得る」という問題文の意図とは明らかに矛盾します。
実務・DTMへの応用
実務やDTMの現場では、EQの設定を始める際に、まず全トラックの不要な超低域をハイパス・フィルターで整理するのが一般的です。特に、ボーカル、アコースティック・ギター、ストリングス、ピアノなど、元々20Hz付近に有効成分をほとんど持たないトラックには、早めにローカットを入れておくと、ミックスのローエンドがスッキリし、キックやベースの居場所を確保しやすくなります。
キックやベースのように低域が重要なトラックでも、20Hz以下の超低域は耳には寄与しないことが多いため、ハイパス・フィルターを20〜30Hz付近に軽めに設定しておくと、ヘッドルームの確保とミックスの安定に役立ちます。そのうえで、必要に応じて80Hzや100Hz付近までカットオフを上げて、楽曲の方向性やアレンジに合わせてローエンドの整理を行います。
また、マスタリング段階でも、全体のステレオバスにごく浅いハイパス・フィルターを入れて、20Hz以下だけをソフトに削っておくケースがあります。これは、スピーカー保護や再生環境のばらつきを抑える意図が強く、特にクラブ系以外の音楽では、超低域を無理に広く残さない方が安定した再生結果を得やすいことが多いためです。
この問題をきっかけに、「とりあえず何となくローカット」ではなく、「20Hz以下を基準に、必要に応じて少しずつカットオフを上げていく」という考え方でEQを見直してみると、ミックスの解像感やヘッドルーム管理が一段とやりやすくなるはずです。
過去問出題年・関連リンク
出題年度:現在調査中(後日追記予定)
