ステレオ効果ってなんだ?
普段、私たちが左右の耳で音楽を聴くと、音が右から来たのか左から来たのか、あるいは前からなのかを自然に感じ取れます。これを生み出しているのがステレオ効果です。
でも、いざ『ステレオ効果って?』と聞かれたら、きちんと説明できるでしょうか?
この回で使われる問題は2025年サウンドレコーディング技術認定試験のステップⅠ第9問目をアレンジして出題しています。本試験は定番テーマの再出題が多い傾向があり、過去問ベースの対策効果が高い試験です。
それでは、早速問題へ行ってみましょう!
目次
2025年問題ステップⅠ問題9
※ここでの音色差は、左右での“音の混ざり具合(周波数バランス)”の違いを指し、一般的にはスペクトル差と呼ばれる。音の三要素の音色とは別となります。
対話講義(Q&A)|耳に届く信号のズレ
タカミックス: 先生!ステレオ効果についてなのに、いきなり両耳聴、音響信号間、物理的要因、レベル差・位相差etc.と聞きなれない言葉が並んでパニくってます!
サウンド先生:ははは、落ち着きなさい。これは試験問題だから、わざと難しく書いてあるだけなんだ。順番にかみ砕こう。
- 両耳聴(りょうじちょう):ただの「両耳で聴くこと」。普段の音楽鑑賞と同じだ。
- 音響信号:これは「音そのもの」のこと。難しく言ってるけど、要するに耳に届く音。
- 物理的要因:音が耳に届くときに生まれる“違い”のこと。音の大きさが違う、届く速さが違う…そういう物理的な差だ。
ここでのレベル差について
タカミックス: レベル差って、音圧レベルの“レベル”のことですか?
サウンド先生: いい質問だ。
ただしここでいうレベル差は、音源と耳の距離による音圧レベルの減衰(距離が2倍で−6dB…といった話)とは違うんだ。
タカミックス: じゃあ何のレベルなんです?
サウンド先生: 左右の耳に届く音の大きさの違いのことだよ。
例えば音が自分の右側から来ると、右耳には大きめに届くけど、左耳は頭に遮られて高い音が減って少し小さく聞こえる。
この左右の差を両耳間レベル差(Interaural Level Difference)と呼んで、脳が音の方向を判断する手がかりにしているんだ。
タカミックス: なるほど!距離減衰のレベルじゃなくて、両耳の“差”なんですね。
サウンド先生: そう。だから文脈で「レベル差」が出てきたら、片耳の絶対的な大きさじゃなくて、両耳の相対的な大きさの違いを指しているんだよ。
位相差について
タカミックス:位相差は初めて聞く単語です。
サウンド先生:位相差っていうのは、音の波の“ズレ”のことだ。
イメージしやすく言うと、同じメロディを二人で歌ったときに、片方がほんの少しだけ出だしを遅らせると、声がきれいに重ならずにズレて聞こえるよね。その「タイミングの食い違い」が波の世界では「位相差」と呼ばれるんだ。
また、耳でいうと、左右の耳に届いた波がちょっとだけズレて重なることで、脳は「どちらから来たか」を判断する手がかりにしている。これも位相差なんだ。高い音よりも低い音(低周波数)が位相差の方向感に効いてくるんだ。
タカミックス:う〜ん、低い音と言われてもピンときません。
サウンド先生:低い音といっても難しく考えなくていい。男声の低音や、バスドラムの「ドン」を思い浮かべればいい。波がゆったりだから、左右に届くズレを感じ取りやすいんだ。
サウンド先生:ここで注意したいのは、「位相」と「位相差」は少し意味が違うということ。
位相は波そのものの位置を指し、重ねると強め合いや打ち消しが起こる。
一方、位相差は2つの波のズレのことで、耳ではその差を利用して方向を感じ取っているんだ。
ただし、今回は「位相差」の方だけ覚えておいてくれ。
ここでの「音色差」について
タカミックス: わかりました!あと音色差についてなんですが、この場合の音色差は音の三要素で教わったものと別なんですか?
サウンド先生:そう、別物だ。三要素での“音色”は“楽器ごとのキャラクター”だったね。
でもここで言う音色はちょっと違うんだ。
左右の耳に届く周波数バランス(混ざり具合)の違いのことを指すんだよ。
そして、この“音色の違い”を一般的にはスペクトル差と呼ぶ。
耳や頭が“フィルタ”みたいに働いて、高い音がちょっと削れたり、逆に強まったりする。その違いを脳が手がかりにして、音の方向を感じ取っているんだ。
この問題では“音色差”と表記されていたが、ステレオ効果のときはスペクトル差と表現されることが多いんだよ。
問9について
タカミックス:問題文の意味を把握したところで、やっと選択肢が絞れます。
サウンド先生:そうだな。じゃあ一つずつ見ていこう。
タカミックス:輝度差って文字だけ見ると、明るいか暗いかの話ですか?
サウンド先生:その通り。輝度は本来「光の明るさ」。ディスプレイや照明の分野では使うが、音の世界では出てこない。試験では“関係ない=引っかけと判断していい。
タカミックス:高度差って音程の話ですか?
サウンド先生:そう思いがちだが、音楽で高さの違いは「音程差」や「ピッチ差」と言う。「高度差」なんて言い方はしない。完全に引っかけだ。仮に音程の差だとしても、答えには関係しない。
タカミックス:わかりました。実はこの問題の答えって最初から「時差」か「時間差」かなと思ってたんですよ。ただ、その違いがわからないんですよ!
サウンド先生:混乱しやすいところだ。言葉は似ているが意味は違う。
- 時差:国や地域の時刻のズレ(タイムゾーンの時差)。聴覚の話ではない。
- 時間差:音がいつ届いたかのズレ。左右の耳に届く到着タイミングの差を説明するときに使う。
ここまで説明すれば、もう答えはわかっただろう?
タカミックス:わかりました、問9の答えは「時間差」ですね!
サウンド先生:そう、よくできました!
この授業のまとめ
問いの答えは時間差であるが、今回のまとめはステレオ効果としたい。
ステレオ効果は、レベル差・位相差・時間差・スペクトル差の4要素から成り立つ。
今日のテーマ
ステレオ効果の4つの手がかり(レベル差・位相差・時間差・スペクトル差)
定義
ステレオ効果とは、左右の耳に届く音のわずかな違いを脳が手がかりにして方向や前後・上下を知覚する現象。
その物理的要因は以下の4つ。
- レベル差:左右の耳に届く音の大きさの違い(距離減衰の話ではなく、頭や耳の影響による差)。
- 位相差:左右の耳に届く音波の“ズレ”。特に低音で効いてくる。
- 時間差:左右の耳に届く到達タイミングの違い。
- スペクトル差:左右の耳に届く周波数バランスの違い。耳や頭がフィルタのように働くことで生じる。
具体例
- レベル差:音が右から来ると右耳には大きめ、左耳は頭に遮られて少し小さめに聞こえる。
- 位相差:低音のドラムや男性低音ボイスは波がゆっくりで、左右に届く波のズレを感じやすい。
- 時間差:拍手の音が右側からだと、右耳にほんのわずか早く届く。
- スペクトル差:顔を右に向けると、右耳は高音が少し豊かに届き、左耳は高音が減る。
覚え方
- レベル差=音量の左右差
- 位相差=波のズレ
- 時間差=到着の早い遅い
- スペクトル差=周波数バランスの差
過去問出題年
検証中(今後追記予定)