この回では、録音・再生技術がラッパ吹込みのアコースティック録音から、マイクとアンプを用いるエレクトリック録音へ移行していく「決定的な転換点」を整理します。転換点になったのは、リー・ド・フォレスト(Lee de Forest)が1906年に発明した、とある“電気的に信号を扱える仕組み”によって、音をいったん電気信号に変えたうえで、必要な大きさに調整できるようになったことです。これにより、録れる音の情報量と再生の安定性が一気に伸び、録音史の流れが大きく変わりました。
ここで押さえるべき対応は「1906年/リー・ド・フォレスト/電気的増幅の始点」です。この出来事を境に、録音は“空気と機械だけで刻む世界”から、“電気で扱える世界”へ踏み込みます。
それでは2025年サウンドレコーディング認定試験で出た問題を解いてみましょう。
目次
過去問|2025年 ステップⅣ 第22問
今回の問題は、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅣ 第22問】をベースに、学習用として一部アレンジして出題しています。
この試験は「定番テーマ」が形を変えて何度も出題される傾向が強く、過去問を押さえることが合格への最短ルートと言えます。
問題=答え|暗記用ワンフレーズ
1906年にリー・ド・フォレストが発明した電子素子=三極真空管
※三極真空管=音を電気的に増幅できる時代のスタート
対話講義(Q&A)|三極真空管と録音革命
タカミックス
先生、この問題の答えって確か真空管ですよね?ただし真空管と言われてもギターアンプで聞いたことあるくらいで、一極とか三極も分からなし、ましてや録音史とのつながりが全然イメージできてないんです。
サウンド先生
では説明しよう!
ラッパ吹き込みの録音は、音(空気の振動)をラッパで集めて、ダイアフラム(薄い膜)を物理的に揺らし、その揺れを針の動きに変えて、ワックスなどに溝として刻む方式だ。
つまり「空気→機械→溝」で完結していて、マイクも電気信号もアンプも一切ない。
まずラッパ吹込みの時代までは、音のエネルギーは全部「空気と機械」でやり取りしていた。ラッパで集めて、ダイアフラムを揺らして、そのまま針を動かして盤に刻む──マイクもアンプもない、完全なアコースティック録音だったんだ。
タカミックス
だから、前回講義で習った300Hz〜3kHzみたいな、細い帯域しか録れなかったわけですね。
そもそも一極真空管と三極真空管って、何がそんなに変わるんですか?

サウンド先生
まず大前提として、「一極真空管」という分類は存在しない。真空管として成立する最小構成は二極管(ダイオード)で、増幅をするなら三極管(トライオード)になる。
そしてこの問題のキーマンが、リー・ド・フォレスト(Lee de Forest)だ。1906年、彼は三極真空管を発明し、それを「オーディオン(Audion)」と呼んだ。
タカミックス
オーディオンって、三極真空管のことなんですね。で、三極真空管の何が録音史に関係あるのですか?
サウンド先生
三極真空管は、ざっくり言うと「小さな電気信号を大きくする“増幅の箱”」だと思っていい。
音波をマイクで電気信号に変えると、その信号はものすごく小さい信号なんだ。これだとラッパ吹込みみたいに“物理の勢い”で針を動かすことができない。そこで必要になるのが、オーディオン=三極真空管による増幅となる。
つまり、三極真空管があることで
「音→電気信号→増幅→記録・再生」
ができるようになった。
タカミックス
なるほど。
それまでは「生身でラッパに叫んでました」って世界から、
「マイクで拾ってアンプで増幅できる」世界に一気に飛んだわけですね。
それが1906年なんだ、と。
でも、電気信号で増幅するって、今の時代のデジタルと何が違うんですか?
サウンド先生
これはね、増幅は出来ても信号はアナログのままだったんだよ。だけど今はA/D変換でデジタル信号に変換が出来るんだ。
ただ、このアナログとデジタルの話は今回の本題と逸れるので別回で説明するよ。
タカミックス
分かりました。
サウンド先生
では問題で提示された選択肢を見てみよう。
一極真空管
三極真空管
トランジスター
IC
この四つが並んでいるけど、録音史の流れで見れば整理は簡単だ。
まず一極真空管は存在しない。トランジスターやICはもっと後の時代の技術だから、1906年の話にはならない。
そして1906年にリー・ド・フォレストが発明したのが、オーディオン=三極真空管。
だから、この問題の正解は三極真空管だ。
タカミックス
1906年/リー・ド・フォレスト/三極真空管(オーディオン)
→電気的増幅のスタート
→アコースティック録音からエレクトリック録音へ進むための鍵
このセットで覚えればいいってことですね。
サウンド先生
そのまとめ方で十分だよ。「いつ・誰が・何を出して、録音技術のどこが飛躍したか」──ここを押さえておけば対応できる。
詳しい解説
一問ずつ正解を覚えることも大事ですが、「なぜその選択肢を選ぶのか」という筋道を理解しておくと、別パターンの問題にも強くなります。
ここからは、対話講義で掴んだイメージを“用語と仕組み”で裏付けるパートとして、基礎は押さえた前提で少し技術寄りに整理していきましょう。
結論の整理
2025年 ステップⅣ 第22問の正解
三極真空管
一言まとめ
1906年にリー・ド・フォレストが発明した三極真空管は、音を電気信号として増幅・制御できるようにしたことで、アコースティック録音から電気式録音への大転換をもたらした。
なぜその答えになるのか(メカニズム)
三極真空管の登場によって、音波をマイクで電気信号に変換し、その信号を自由に増幅・減衰させることが可能になりました。これにより、ラッパ吹込みのように大きなラッパに向かって大声で演奏する必要がなくなり、録音レベルやバランスを電気的にコントロールできるようになったのがポイントです。録音・再生技術が「電気の時代」に入っていく起点として、1906年の三極真空管は録音史上の重要な起点と位置づけられます。
ここで鍵になっているのは「電気信号を自由に増幅・減衰させること」です。
増幅を可能にした代表的な電子素子が三極真空管であり、リー・ド・フォレストのオーディオンとして知られています。三極真空管は、フィラメント(カソード)、プレート(アノード)、グリッドの3つの電極を持ち、グリッドに加える小さな電圧の変化で、プレート電流を大きく変化させることができます。
この性質によって、マイクからの微弱な電気信号を大きく増幅し、スピーカーやカッティングマシンを駆動できるレベルまで持ち上げることが可能になりました。結果として、ラッパ吹込みでは不可能だったような録音レベルの調整、距離感やバランスのコントロールが実現し、録音・再生の音質やダイナミクスが飛躍的に向上したわけです。
したがって、「録音・再生技術が画期的に向上した」「増幅・減衰が自由にできるようになった」という問題文の記述から、三極真空管を選ぶのが論理的に一貫した回答になります。
他の選択肢が誤り(または優先度が低い)理由
- 一極真空管
一極真空管という分類は存在しません。電子管として成立する最小構成は、陰極(電子を出す側)と陽極(受ける側)を備えた二極管(ダイオード)です。さらに増幅を行うには、電流を制御するためのグリッドを追加した三極管(トライオード)が必要になります。
- トランジスター
トランジスターは半導体を用いた増幅素子で、真空管の後に登場したデバイスです。
最初のトランジスターはベル研究所にて、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテン、ウィリアム・ショックレーらにより発明され、1947年末に動作デモが行われました。
- IC
IC(Integrated Circuit)は集積回路で、トランジスタなどの素子と配線を1枚のチップ上にまとめたもの。原型は1958〜1959年に成立し、実用化・普及は主に1960年代以降に進んだ。
一歩踏み込んだ音楽知識
さて、1906年に三極真空管が登場したのに、なぜラッパ吹込み(アコースティック録音)がすぐ消えなかったのでしょうか?
答えは、電子素子が“発明された”ことと、録音産業が“方式を置き換える”ことの間には大きなギャップがあるからです。真空管は電気を増幅できますが、それ単体ではレコード録音を電気化できません。電気録音を成立させるには、マイク、増幅器、そして原盤を刻む電磁式のカッターヘッドまでを一体として動かす「録音システム」が必要になります。1920年代の電気録音が「マイク→真空管増幅→電磁式カッターヘッド」という構成で語られるのは、この“全部入り”が本体だからです。
さらに言うと、初期の三極真空管は“増幅できる概念”としては画期的でも、すぐにあらゆる現場で信頼して使えるほど成熟していたわけではありません。実用品として安定して使える真空管技術は、その後の改良と量産、供給網の整備によって現実味を帯びていきます。つまり、1906年前後に扉の鍵は見えたけれど、扉を開けて商業運用するための部品とノウハウが揃うまで時間がかかった、という見立てが自然です。
そして“最後の一押し”は、市場側の圧力です。1920年代にラジオが普及して、人々が「声がはっきりしている」「レンジが広い」音に慣れると、レコードもそれに追随する必要が出てきます。ここで電気録音の導入が、単なる技術好きの夢物語ではなく「商売として勝つための必須投資」になった。結果として、電話技術の世界で培われた音声を電気信号として扱うノウハウが録音へ持ち込まれ、マイクで拾う→真空管で増幅する→電気駆動のカッターヘッドで原盤に刻むという一連の流れが「導入できる仕組み」として整った。これがいわゆるWestern Electric/Bell Labs系の電気録音システムであり、1925年前後にこの方式が業界の主流を一気に置き換えていきます。
だからこの転換は、「マイクが登場した」ではなく、「録音が“物理で刻む”世界から、“電気で信号を扱って刻む”世界へ移った」という構造の転換として頭に入れておくのが一番効きます。古い録音が中域寄りで痩せて聴こえるのも、1920年代後半以降にレンジと表現が急に広がるのも、好みや偶然ではなく“方式の違い”が原因だ、と一本の線で理解できるようになります。
過去問出題年・関連リンク
出題年度:現在調査中(後日追記予定)
