デジタルレコーダーは、耳ではほとんど認識できない数Hz帯域まで正確に録音してしまいます。空調の揺れや足音、遠くの電車や車による振動といった超低域成分は、音楽的な意味は薄い一方で、ヘッドルームだけを消費する厄介な存在です。
アナログ MTR では機器特性により超低域が自然に減衰していましたが、フラットなデジタル録音では、不要な超低域を意識的に整理することが前提になります。今回の問題は、その基本的な考え方を問うものです。
それでは問題を解いてみましょう!
目次
過去問|2025年 ステップⅢ 第14問
今回の問題は、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第14問】をベースに、学習用として一部アレンジして出題しています。
この試験は「定番テーマ」が形を変えて何度も出題される傾向が強く、過去問を押さえることが合格への最短ルートと言えます。
問題=答え|暗記用ワンフレーズ
デジタル録音で混ざる超低域ノイズ=カットしておく
※デジタルは拾いすぎる超低域はハイパスで整理
対話講義(Q&A)|デジタル録音と超低域ノイズカット
タカミックス
先生、この問題なんですけど──
デジタル録音では20Hz以下の超低域はミックス時にカットする、っていうのはもう前の記事で理解してます。
それを踏まえた上で、この設問って「何を確認したい問題」なんでしょうか?
サウンド先生
いい視点だね。
この問題は「カットすることを知っているか」よりも、なぜデジタル録音では“意識して”カットしなければならないのかを理解しているかを見ている。
タカミックス
なるほど……
アナログだと、テープや回路の段階で自然に減衰していた超低域が、デジタルだとそのまま残ってしまう、という話ですね。
サウンド先生
その通り。
問題文に出てくる「空調の風の揺れ」「アーティストの動作」「電車や車」は、空気中を伝わる音としての成分だけでなく、床やマイクスタンドを介して伝わる振動成分も含んでいるよね。
タカミックス
はい。
耳で「低い音」として聴こえる前の、数Hzレベルの振動成分ですよね。
サウンド先生
そう。
デジタルレコーダーは数Hzまでも忠実に記録できてしまうから、音楽的に意味のない外部振動までそのままデータ化される。
タカミックス
で、それが配信データやCDに行くと、聴こえないのにメーターだけ動かして、ヘッドルームを無駄に食う──という状態になる。
サウンド先生
まさにそこ。
だからこの設問は、「デジタルは拾いすぎる」→「だからミックスダウン時に処理が必要」という因果関係を正しく読めているかを問うている。
タカミックス
そう考えると、「キープしておく」「ブレンドしておく」みたいな選択肢は、“情報は残したほうがいい”という感覚に引っ張られる人向けの罠ですね。
サウンド先生
その認識で正解。
この文脈で残す意味があるのは音楽的な低域であって、外部振動由来の超低域は完全にノイズ側の存在だ。
タカミックス
だから答えは、
ミックスダウン時に「カットしておく」。
サウンド先生
うん。
この問題は、「デジタル録音では、不要な超低域を“自分で管理する”必要がある」という基本セオリーを確認する設問なんだ。
タカミックス
理解できました。
20Hz以下は“太さ”じゃなく、放っておくと音楽全体を濁らせる要因。
だからミックスで確実にカットしておく──ですね。
詳しい解説
一問ずつ正解を覚えることも大事ですが、「なぜその選択肢を選ぶのか」という筋道を理解しておくと、別パターンの問題にも強くなります。
ここからは、対話講義で掴んだイメージを“用語と仕組み”で裏付けるパートとして、基礎は押さえた前提で少し技術寄りに整理していきましょう。
結論の整理
2025年 ステップⅢ 第14問の正解
カットしておく
一言まとめ
デジタル録音で紛れ込んだ超低域ノイズはミックス段階で容赦なくカットする
なぜその答えになるのか(メカニズム)
デジタルレコーダーは、理論上はほぼ変化しないほどゆっくりした超低域、つまり数Hzといった帯域まで録音できる設計になっていることが多く、実際の運用でもかなり低い帯域までフラットに収音してしまいます。空調の風による風圧、マイクスタンドや床の揺れ、ステージ周りの機械振動、遠くの交通振動などは、いずれも「超低域の揺れ」として入力されます。
人間の聴覚は、20Hz付近より下になると音程としては認識しづらくなりますが、スピーカーはその帯域でも物理的に大きく振らされます。結果として、以下のような問題が起こります。
音楽的な情報に貢献しないのに、ピークレベルとRMSレベル(信号の実効値、実際の音量感に近い指標)だけが無駄に上がるため、マスターのヘッドルームが減る。
低域楽器(キックやベース)の本当に聴かせたい帯域がマスキングされ、ローエンドの解像度が落ちる。
サブウーハーや大口径スピーカーが必要以上にストロークさせられ、システムへの負担や歪みの発生リスクが増える。
これらの問題は、ミックスダウンの段階でハイパスフィルターやサブソニック・フィルターを使って、20Hz前後を目安に不要な超低域をカットすることでかなり解消できます。問題文が「CDにも記録されてしまうので、ミックスダウン時に(14)必要がある」と明言していることからも、「最終メディアに渡す前に、自分でちゃんとカットしておけ」という意図が読み取れます。
したがって、「カットしておく」が最も適切な選択肢になります。
他の選択肢が誤り(または優先度が低い)理由
- ブーストしておく
「ブーストしておく」を選んでしまうと、外部振動による超低域成分をさらに強調することになります。音楽的な情報が増えるわけではなく、ヘッドルームを圧迫し、スピーカーの負担を増やすだけなので、ミックスダウンの観点からは完全に逆効果です。
- キープしておく
「キープしておく」は、一見「録れたものはそのまま残す」という意味で無難に見えますが、この問題の文脈では誤りです。配信やCDにもそのまま記録されてしまうと書かれている以上、「何もせずに残す」のではなく「処理する」ことが求められています。試験としては、ここを読み落とすと引っかかりやすいポイントです。
- ブレンドしておく
「ブレンドしておく」は、他のトラックやエフェクトと混ぜておくようなニュアンスを含みますが、超低域ノイズを意図的にブレンドする理由はありません。むしろ、音楽の芯となる帯域と分離させるためにローカットで整理すべき成分であり、「混ぜる」方向の処理はこの問題の意図に合致しません。
実務・DTMへの応用
実務やDTMでミックスをするとき、デジタル録音素材には「耳ではあまり分からないのに、メーターだけやたら振らせてくる低域成分」が紛れ込んでいることがよくあります。特に、ルームノイズの多い環境や、ステージ上でのライブ収録、コンデンサーマイク多用のクラシック録音では顕著です。
DAWでは、各トラックやサブグループにローカットフィルターを挿して、まず不要な超低域を大胆に整理してしまうのが定石です。例えば、ボーカルやアコギのトラックなら 60〜80Hzより下を落としても違和感がないケースが多く、全体バスでは20〜30Hz以下を軽くカットするだけでも、マスターのヘッドルームやリミッターの動きがかなり安定します。
このとき大事なのは、「とりあえず全部フラットで残しておけば安全」という発想から、「使わない帯域は積極的に捨てて、聴かせたい帯域にヘッドルームを渡す」という発想に切り替えることです。今回の問題は、その意識を試験レベルで確認していると考えると、実務でも直結する知識として腹落ちしやすくなるはずです。
過去問出題年・関連リンク
出題年度:現在調査中(後日追記予定)
