今回扱うのは、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第9問】、アナログ24トラック・マルチトラックレコーダー(MTR)のS/Nとノイズ・リダクションに関する問題です。
16トラックから24トラックに増えたことで「便利になっただけ」だと思っていると、この問題の本質を落としてしまいます。
2インチ幅テープに16トラックと24トラックを刻んだとき、1トラックあたりのテープ幅がどう変わるか、それがなぜS/N悪化につながるのか。そして、アナログMTR時代に必須だったノイズ・リダクションがどういう役割を担っていたのかが、この問のポイントです。
この記事を読み終える頃には、「トラック数が増える=そのままだとS/Nが悪くなる」「だからMTR用ノイズ・リダクションが必須だった」という流れで説明できるようになるはずです。
それでは問題を解いてみましょう!
目次
過去問|2025年 ステップⅢ 第9問
今回の問題は、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第9問】をベースに、学習用として一部アレンジして出題しています。
この試験は「定番テーマ」が形を変えて何度も出題される傾向が強く、過去問を押さえることが合格への最短ルートと言えます。
問題=答え|暗記用ワンフレーズ
24トラックMTRで狭くなったトラック幅のS/N対策=ノイズ・リダクション
※アナログMTRの定番S/N改善=専用ノイズ・リダクション
対話講義(Q&A)|24トラックMTRとノイズ・リダクション
タカミックス
先生、この問題なんですけど。
24トラックMTRは16トラックMTRと同じ2インチ幅のテープを使うから、1トラックあたりの幅が狭くなる──って書いてありますよね。
幅が狭くなるなら、音質は劣化するって考えていいんですか?
サウンド先生
まず“条件だけ見れば”は、その理解で合ってる。
同じ2インチを24本に分けると、16本に分けるより1トラック幅が細くなる。すると一般に、S/Nは不利になりやすい。問題文が言っているのはその部分だね。
ちなみにS/N比はSignal-to-Noise Ratio(信号対雑音比)の略で、「信号(欲しい音)」と「ノイズ」の比だ。
数値が大きいほどクリアで、「S/Nが不利になる」というのは、同じ録り方をしたときにノイズが相対的に目立ちやすくなる、という意味だよ。
タカミックス
なるほど…
サウンド先生
そしてテープ録音では、機材の問題がなくても、テープ自体の性質として「サーッ」という雑音がうっすら乗る(これがノイズフロア)んだ。
トラック幅が広いほど、テープに音の情報を書き込める面積が大きくなる。だから、同じ条件でも信号をしっかり記録しやすく、ノイズフロアに対して相対的にS/Nを稼ぎやすい。
逆に幅が狭いと、信号がノイズフロアに近づきやすく、S/Nが悪化しやすい、という方向に働く。
タカミックス
じゃあ問題文の「このS/N劣化を防止するために、MTR用(9)を使用してS/Nの改善が行われた」
っていう(9)は何ですか?
サウンド先生
ここはストレートにノイズリダクションだ。
アナログMTRでは、S/Nを稼ぐためにMTR用ノイズリダクションが使われた。
タカミックス
ノイズリダクションって、具体的には何をしてるんですか?
サウンド先生
ざっくり言うと、録音時と再生時をセットにした仕組みで、専門用語では録音時がエンコード(加工して記録)、再生時がデコード(逆加工して元に戻す)だ。
録音時(エンコード)に、ノイズが目立ちやすい帯域の信号をあらかじめ持ち上げてテープに記録しておいて、再生時(デコード)に逆のカーブで元に戻す。
その結果、再生側で下げる工程の中でヒス成分も一緒に下がって、見かけ上S/Nが改善される。
タカミックス
エンコード?デコード?
サウンド先生
引っ越しで例えると分かりやすい。
エンコードは「壊れないように一旦“梱包して形を整える”」こと、デコードは「“開梱して元の状態に戻す”」ことだ。
ノイズリダクションも同じで、録音時(エンコード)に信号を一度加工して記録し、再生時(デコード)に逆加工して元に戻す。だから戻す工程でヒスも一緒に下がって、結果としてS/Nが改善される。
タカミックス
わかりました。
サウンド先生
ただし、ここで誤解しやすい点がある。
24トラックに増えたことで「幅が細くなった=音も悪くなった」わけではないからだ。
タカミックス
え、でも細いなら不利なんですよね?
サウンド先生
不利なのは“1トラックあたりの条件”だ。
でも24トラック時代は、ノイズリダクションだけじゃなく、テープ材、ヘッドや走行系の精度、回路設計なども含めて全体が進化していった。
だから現実には、理屈としては不利になりやすい条件でも、技術と運用で帳尻を合わせて音質を成立させていた。
結果として、制作全体としてはむしろ安定し、メリットが大きかった。
タカミックス
なるほど。
「細くなったから終わり」じゃなくて、細くなった不利を前提に、それを補う仕組みがノイズリダクションも含めてセットで発達したんですね。
サウンド先生
そういうこと。
詳しい解説
一問ずつ正解を覚えることも大事ですが、「なぜその選択肢を選ぶのか」という筋道を理解しておくと、別パターンの問題にも強くなります。
ここからは、対話講義で掴んだイメージを“用語と仕組み”で裏付けるパートとして、基礎は押さえた前提で少し技術寄りに整理していきましょう。
結論の整理
2025年 ステップⅢ 第9問の正解
ノイズ・リダクション(Noise Reduction)
一言まとめ
2インチ24トラで細くなった各トラックのS/N低下は、MTR用ノイズ・リダクションで補っていた。
なぜその答えになるのか(メカニズム)
まず、問題文の前半が示しているのは「トラック数とS/Nのトレードオフ(トラック数を増やすメリットと、S/N面の不利がセットになる関係)」です。
同じ2インチ幅テープで16トラック→24トラックに増やすと、1トラックあたりのトラック幅は細くなります。トラック幅が細いほど、再生時に取り出せる有効信号(再生出力)を稼ぎにくくなり、テープヒス(テープ由来のサー音)に対して相対的にS/Nが不利になりやすくなります。
この不利を補うために使われたのが、MTR用ノイズ・リダクションです。代表的な方式では、
- 録音時(エンコード)に、方式にもよりますがノイズが目立ちやすい帯域(多くは高域)の信号を持ち上げる/圧縮して記録する
- 再生時(デコード)に、逆特性(伸長/減衰)で元のバランスに戻す
という“エンコード/デコードの対”で動きます(広義のコンパンディング)。
このときテープ上には「加工された信号+テープヒス」が一緒に記録されています。再生時に逆処理で戻す過程で、信号は元のバランスに復元される一方、ヒス成分は相対的に押し下げられます。
結果として、裸のテープ運用よりもS/Nが改善される──これがノイズ・リダクションの基本的な発想です。
他の選択肢が誤り(または優先度が低い)理由
- PCM
PCM(Pulse Code Modulation)は、デジタルオーディオの基本的な符号化方式です。
もし「PCMレコーダー」や「デジタルMTR」の話なら、確かにS/N改善やノイズ低減と関連づけられますが、この問題は「アナログ24トラックのMTR」が前提です。
アナログテープ上のS/N悪化を補うための手段としては直接的ではなく、文脈から外れた選択肢になります。
- PWM
PWM(Pulse Width Modulation)は、パルス幅変調のことで、スイッチング電源やDクラスアンプなどでよく使われる方式です。
音声のレベル制御や電力制御には使われますが、「アナログMTRのS/Nを改善するための専用方式」という文脈とはかけ離れています。
- DTS
DTS(Digital Theater Systems)は、映画館やホームシアターで使われるデジタルサラウンドフォーマットです。
多チャンネル音声を効率よく符号化する方式であり、シネマ再生システムと深い関係がありますが、「アナログ24トラックMTRのS/N劣化を防止するために使用された技術」ではありません。
実務・DTMへの応用
現代のDTMでは、2インチテープ幅のような「媒体の物理制約」を直接扱う場面はほぼありません。なので本問は、知識としては「テープMTRではトラック幅がS/Nに影響し、対策としてノイズリダクションを使った」という理解で十分です。
一方、DTMでも本質は同じで、「条件を変えると別の不利が出る」トレードオフは常に起きます。たとえば、後で音量を持ち上げる前提で小さく録るとノイズも一緒に目立ちやすい、というように、S/Nは“録り方と運用”で左右されます。
つまり実務的には、この問題は「仕組み(エンコード/デコード)を理解し、問題文の条件を素直に読んで因果で答える」訓練として捉えるのが一番現実的です。
過去問出題年・関連リンク
出題年度:現在調査中(後日追記予定)
