今回のテーマは、アナログ16トラックレコーダーの時代に「最初にどこへトラックを割り振るか」という、トラック割りの発想を問う問題です。
特に、リズムセクションをどう扱うかは、当時のレコーディング現場のセオリーがそのまま反映されているポイントです。
現代のDAW環境ではトラック数がほぼ無制限に使えるため、つい「好きなだけ増やせばいい」と考えがちですが、トラック数に制約があった時代の考え方を知っておくと、アレンジやマイキング、バランス設計の解像度が一段上がります。
この記事では、「まず何をどのくらいのトラック数で押さえておくべきか」という発想を通じて、リズムセクションの重要性とトラック割りの基本を整理していきます。
それでは問題を解いてみましょう!
目次
過去問|2025年 ステップⅢ 第6問
今回の問題は、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第6問】をベースに、学習用として一部アレンジして出題しています。
この試験は「定番テーマ」が形を変えて何度も出題される傾向が強く、過去問を押さえることが合格への最短ルートと言えます。
問題=答え|暗記用ワンフレーズ
16トラックでまず8トラック割り当てる対象=リズムセクション
※土台はまずリズム隊に集中
対話講義(Q&A)|16トラック時代のトラック割り
サウンド先生
始める前に一つだけ、前提を確認しておこう。この問題で言っている「16トラックレコーダー」とは、一般的にアマチュアでも気軽に使えるようなレコーダーじゃなかったのは知ってたかな?
タカミックス
えっ、そうなんですか?
16トラックと聞いて、ノートパソコンくらいのサイズの機材を想像していました。
サウンド先生
無理もないね。
でも試験が想定しているのは、
2インチテープを使う業務用のアナログ16トラックレコーダーだ。
商業スタジオで、本番の録音に使われていた機材だよ。
日常生活で使うものに例えるなら一人暮らし用の2ドア冷蔵庫くらいだ。

タカミックス
そんなに大きんですか?
それだと、アマチュアが手軽に手を出せる機材ではなかったんですね!
サウンド先生
その通り。
なので、とりあえず録って「後で何とかする」ではなく、プロの現場に携わる人たちが録音前にトラック割りを設計しないと成立しなかった世界なんだ。
タカミックス
なるほど…
でもプロでもアマでも最初はドラムを細かく分けて録る話ではないのですか?
サウンド先生
その発想自体は自然だね。
ただ、この問題文では「リズムセクションの各楽器を別々のトラックに収録できる」
という前提がすでに示されている。
タカミックス
あ、確かに……。
主語が最初から「リズムセクション」になってますね。
サウンド先生
そう。
だからここで問われているのは、
「どの楽器を何本使ったか」ではなく、
「まず、どのまとまりにトラックを割り当てたか」なんだ。
タカミックス
となると、単体の楽器名より、複数の楽器を含む概念を選ぶ問題ですね。
サウンド先生
その通り。
問題文の流れをそのまま追えば、約8トラックを最初に割り当てる対象はリズムセクション、という結論になる。
タカミックス
なるほど、16トラック時代には、まずリズムセクション全体を複数トラックでしっかり押さえる、
その発想を問う問題、ということですね。
サウンド先生
うん。
トラック数に制約がある時代だからこそ、「何を最優先でトラックに割り当てるか」
その判断基準を理解しているかどうかが問われているんだ。
詳しい解説
一問ずつ正解を覚えることも大事ですが、「なぜその選択肢を選ぶのか」という筋道を理解しておくと、別パターンの問題にも強くなります。
ここからは、対話講義で掴んだイメージを“用語と仕組み”で裏付けるパートとして、基礎は押さえた前提で少し技術寄りに整理していきましょう。
結論の整理
2025年 ステップⅢ 第6問の正解
リズムセクション
一言まとめ
16トラック時代は、まずリズムセクションにトラックを集中させて曲の土台をしっかり作る。
なぜその答えになるのか(メカニズム)
アナログ16トラックレコーダーが主流だった時代、トラック数は「有限で、後から増やせない」前提の資源でした。
そのため録音エンジニアは、録音を始める前の段階で「どのパートに、どれだけのトラックを割り当てるか」をあらかじめ設計し、その設計に沿って録音を進めていました。
この問題で問われているのは、
16トラックという制約の中で、まずどの“まとまり”を優先してトラックに割り当てたか、という考え方です。
問題文ではすでに、
「リズムセクションの各楽器を別々のトラックに収録できるだけのチャンネル余裕が生まれた」
と示されています。
ここから分かるのは、話題の中心が個々の楽器名ではなく、**リズムセクションという“録音・管理の単位”**に置かれているという点です。
16トラック時代の録音では、テンポ修正や演奏の差し替えが容易ではなく、曲全体のノリや安定感は「最初に録った演奏」に大きく依存していました。
そのため、リズム・グルーヴ・和声の基準を担うリズムセクションは、後回しにする対象ではなく、最初に十分なトラック数を確保して収録すべき土台と考えられていました。
問題文にある「約8トラック」という数字も、特定の楽器構成を暗記させるためのものではありません。
16トラックの半分前後をリズムセクションに割り当てることで、
・各楽器を独立してレベル管理できる
・後段のミックスで音色や定位を調整できる余地が生まれる
・演奏のノリを保ったまま曲全体を組み上げられる
といった、当時として合理的な運用が可能になります。
この文脈で考えると、「まず約8トラックを割り当てる対象」は、ドラムやヴォーカルと言った単体の楽器名では成立しません。
複数の楽器を内包し、曲の土台を形成するリズムセクションだからこそ、問題文の流れと自然につながります。
つまりこの問題は、
「何を何本で録ったか」という具体例を知っているかではなく、
アナログ多トラック時代の録音設計思想を理解しているかを問う設問です。
その設計思想に照らせば、
最初にトラックを集中的に割り当てるべき対象は、
曲の土台となる リズムセクション である、という結論に至ります。
他の選択肢が誤り(または優先度が低い)理由
- ドラム
ドラムはリズムセクションを構成する重要な要素ではありますが、この問題文が指している対象としては適切ではありません。
問題文では「リズムセクションの各楽器を別々のトラックに収録できるようになった」と述べており、話題の主語はあくまでリズムセクション全体です。その上で「まず約8トラックを割り当てる対象」を問うているため、単体の楽器名であるドラムを当てはめると、文脈上の視点が一段ズレてしまいます。
16トラック時代にドラムが複数トラックを使って録音されていた事実自体はありますが、「ドラムだけを約8トラックに録る」という話ではなく、「複数の楽器からなる土台をどう扱ったか」を問う問題である以上、ドラム単体を答えにすることはできません。
- ヴォーカル
ヴォーカルは楽曲において非常に重要なパートですが、この問題の文脈では優先的に多数のトラックを割り当てる対象として想定されていません。
問題文は、16トラック化によって「リズムセクションの各楽器」を個別トラックで扱えるようになったことを前提にしています。その流れで「まず約8トラックを割り当てる対象」を考えると、演奏の土台を形成するリズムセクションと、後からでも録音や調整が可能なヴォーカルとでは、優先順位が一致しません。
また、ヴォーカルは通常、リードやダブル、コーラスなど限られた本数で成立することが多く、「約8トラック」という数量感とも噛み合いにくい選択肢です。
- ミックスダウン
ミックスダウンは録音対象となるパートではなく、マルチトラックに録音された素材を最終的にまとめる工程を指す用語です。そのため「まずミックスダウンだけを約8トラックに録音する」という表現自体が成立しません。
問題文が扱っているのは、録音段階でのトラック割りの考え方であり、制作工程として後段に位置するミックスダウンとは次元の異なる話です。
用語としての性質を理解していれば、この選択肢は文脈上ただちに除外できるものだと言えます。
実務・DTMへの応用
ここで扱っているのは「作曲の順序」ではなく、録音・制作フェーズに入った後、どのパートを基準に全体を組み立てるか、という考え方です。
この問題で扱われている「まずリズムセクションにトラックを割り当てる」という発想は、現代のDAW環境でもそのまま応用できます。トラック数自体は事実上無制限になりましたが、制作の初期段階で何を“土台”として扱うかという考え方は、むしろ重要性が増しています。
DTMでは、つい思いついた音色やフレーズを順番に足していきがちですが、その結果、リズムやグルーヴの基準が曖昧なままトラックだけが増えてしまうケースは少なくありません。これは、16トラック時代で言えば「土台を固める前に上物を録り始めてしまう」状態に近いと言えます。
そこで意識したいのが、
制作の最初に“リズムセクション相当のまとまり”を明確にすることです。
具体的には、ドラム、ベース、リズムギター、コード楽器など、楽曲のテンポ感やノリを決定づけるパートを、先に一通り組み上げます。この段階では音色の作り込みよりも、
・テンポが安定しているか
・リズムの噛み合いが取れているか
・コードとベースの動きに無理がないか
といった点を優先して確認します。これは、アナログ時代に「まずリズムセクションを8トラック前後で押さえた」考え方と本質的に同じです。
また、ミックスの観点でも、この考え方は有効です。制作初期にリズムセクションを独立したまとまりとして整理しておくことで、後段の処理が安定します。たとえば、フェーダー操作やバス処理、軽いコンプレッションを使ったグルーヴ調整なども、土台が固まっていれば判断がしやすくなります。
一方で、リードヴォーカルやコーラス、ストリングス、効果音的なパートは、リズムセクションが成立した後からでも十分に対応できます。これらを後段に回すことで、アレンジや音作りの判断基準がぶれにくくなります。
まとめると、DTMにおける実務的なポイントは次の一つに集約されます。
トラック数が無制限でも、考え方の優先順位は有限である。
16トラック時代の「まずリズムセクションを押さえる」という発想は、
現代では「まず楽曲の土台となるパート群を完成させる」という形で生き続けています。この視点を持って制作に臨むことで、アレンジ・ミックスともに判断が安定し、完成度の高い楽曲に近づけることができます。
過去問出題年・関連リンク
出題年度:現在調査中(後日追記予定)
