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AM放送に学ぶリミッター運用術④:フェーダー位置とヘッドアンプ歪みのリスク|2025年過去問解説ステップⅢ-5

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ラベル作曲「ボレロ」のようなダイナミックレンジの大きい曲では、ピアニッシッシモ(ppp)からフォルティッシッシモ(fff)までの音量差が極端で、収録エンジニアの腕が問われます。特に、フォルティッシッシモのテュッティで思い切りフェーダーを下げても、なぜか音がバリバリと歪んでしまう──この現象の原因をきちんと理解しているかどうかが、この問題のテーマです。

今回は、フェーダーだけを触っても解決しない歪みの正体と、「フェーダー以前(Pre Fader)」で発生するヘッドアンプやイコライザーのクリップについて整理します。ダイナミックレンジの大きい素材を安全に扱うための「ゲイン・ストラクチャ」の考え方にもつながる内容なので、ここでしっかり押さえておきましょう。

それでは問題を解いてみましょう!

過去問|2025年 ステップⅢ 第5問

今回の問題は、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第5問】をベースに、学習用として一部アレンジして出題しています。
この試験は「定番テーマ」が形を変えて何度も出題される傾向が強く、過去問を押さえることが合格への最短ルートと言えます。

問Ⅲ-5:ラベル作曲「ボレロ」のようにダイナミックレンジの大きい曲では、fff の最大のテュッティでは 20dB 以上フェーダーを下げなければならない場合がある。 しかし音量の大きいところで必要以上にフェーダーを下げると、フェーダー(5)のヘッドアンプやイコライザーで歪むことがある。この(5)に入る最も適切な語句を、次の中から1つ選びなさい。

問題=答え|暗記用ワンフレーズ

ボレロのフォルティッシッシモ(fff)で歪むのはフェーダーのどちら側?=フェーダー以前
※歪みはヘッドアンプ&EQ(イコライザー)の入力段で決まる

対話講義(Q&A)|ボレロとフェーダー以前の歪み

タカミックス
先生、このボレロの問題なんですけど……フォルティッシッシモのテュッティ(=全パートが一斉に鳴る総奏)で20dB以上フェーダーを下げなきゃいけないって書いてありますよね。それだけ下げてるのに、それでもヘッドアンプ(マイクの小さい音を最初に持ち上げる回路)とかイコライザーで歪むって、どういう状況なんですか?

サウンド先生
いいところに気付いたね。ポイントは「どこで」歪んでいるかなんだ。フェーダーをいくら下げても、フェーダーに到達する前の段でクリップ(入力過大による歪み)していたら、歪んだ波形を小さくしているだけになってしまう。

タカミックス
ああ……つまり、フェーダーの前で音がすでにグシャッと潰れてるってことですか?

サウンド先生
その通り。ミキサーの信号の流れをざっくり書くと、マイク入力 → ヘッドアンプ → イコライザー → そのあとにフェーダー、という順番になっている。だから、マイクから来たボレロのフォルティッシッシモがヘッドアンプで飽和してしまうと、その後のフェーダーをどれだけ下げても「歪んだ音量を下げているだけ」なんだ。

タカミックス
なるほど。でも問題文には「フェーダー(5)のヘッドアンプやイコライザーで歪む」って書いてあって、選択肢は「アサインボタン」「パン」「以前」「以後」ですよね。直感的には「フェーダー以後」のどこかで歪みそうな気もするんですけど……。

サウンド先生
たしかに「フェーダーを下げてるのに歪む=フェーダーの後ろで歪んでいる」と勘違いしやすい。でも、実際には逆で、フェーダーの前にあるヘッドアンプやイコライザーが真っ先に悲鳴を上げる。だから空欄には「以前」が入る。つまり「フェーダー以前のヘッドアンプやイコライザーで歪む」という意味になるわけだね。

タカミックス
ってことは、ボレロみたいなダイナミックレンジ(最小音から最大音までの音量差)が大きい曲の場合、「フェーダーをどれくらい下げてるか」よりも「ヘッドアンプにどれくらい突っ込んでいるか」を管理しないといけないってことですか?

サウンド先生
まさにそれ。ダイナミックレンジの大きい素材を扱うときは、まずヘッドアンプのゲインを慎重に決めて、フォルティッシッシモのテュッティでもヘッドアンプがクリップしないような余裕を確保しておくことが大切なんだ。フェーダーはその後で「番組としてちょうど良いレベル」に整えるための道具だと思った方がいい。

タカミックス
DTMで言えば、オーディオインターフェースのインプットゲインとか、プラグイン前のインサートレベルが真っ赤になってるのに、チャンネルフェーダーだけ下げて「歪みが取れない……」ってやつと同じですね。

サウンド先生
そうそう、まったく同じ構造だよ。だからこの問題は「フェーダーで帳尻を合わせればOK」じゃなくて、「フェーダー以前のゲイン・ストラクチャ(音が回路を通る順番ごとのレベル配分)をきちんと設計しよう」というメッセージだと理解すると覚えやすい。

タカミックス
なるほど……。じゃあ試験的には、「大きな音で歪んだら、まず疑うのはフェーダーより前のヘッドアンプやイコライザーの入力段」という発想を持っておけば良さそうですね。

サウンド先生
その発想ができれば、この手の問題はかなり取りやすくなるよ。

詳しい解説

一問ずつ正解を覚えることも大事ですが、「なぜその選択肢を選ぶのか」という筋道を理解しておくと、別パターンの問題にも強くなります。
ここからは、対話講義で掴んだイメージを“用語と仕組み”で裏付けるパートとして、基礎は押さえた前提で少し技術寄りに整理していきましょう。

結論の整理

2025年 ステップⅢ 第5問の正解
フェーダー以前

一言まとめ
フェーダーを思い切り下げても歪みが消えないときは、ヘッドアンプやイコライザーなど「フェーダー以前」でクリップしていると考える。

なぜその答えになるのか(メカニズム)

ミキサーの信号経路を大まかに見ると、マイク入力 → ヘッドアンプ → イコライザー → フェーダー → バス → マスター、という順番になります。ここで重要なのは、ヘッドアンプとイコライザーがフェーダーより前段、つまり「フェーダー以前」に位置していることです。

ボレロのようにダイナミックレンジの大きい曲では、ピアニッシッシモのときにはほとんどメーターが動かないレベルでも、フォルティッシッシモのテュッティでは一気に20dB以上レベルが跳ね上がることがあります。このとき、ヘッドアンプでの入力レベル設定がギリギリ過ぎると、フォルティッシッシモでヘッドアンプが飽和し、波形がクリップしてしまいます。ここで歪んだ波形は、その後のイコライザーやフェーダーに「すでに歪んだ状態」で渡されることになります。

フェーダーは基本的に「そのチャンネルの出力レベルをどれくらい送るか」を決めるボリュームであって、前段で発生したクリッピングを元に戻す機能はありません。クリップして角が潰れた波形を、単に小さくしているだけなので、音量は下がっても歪み自体は残ります。これが「フェーダーを20dB以上下げているのに、まだ音が歪む」という現象の正体です。

また、イコライザーも多くの場合「フェーダー以前」に配置されるため、ヘッドアンプから来た大き過ぎる信号がイコライザー内でさらに増幅されたり、特定帯域だけ無理に持ち上げることで、内部でオーバーしてしまうこともあります。いずれにせよ、クリップしてしまうのはフェーダーのつまみではなく、その前段にあるヘッドアンプやイコライザーです。

したがって、「フェーダーを大きく下げているのに歪む」状況を説明する語句としては、フェーダーより前の段階を示す「以前」が最も適切となります。ここを「フェーダー以後」と勘違いすると、信号経路の理解が逆転してしまうので注意が必要です。

他の選択肢が誤り(または優先度が低い)理由

  • アサインボタン
    アサインボタンは、チャンネルの信号をどのバスやグループに送るかを選択するスイッチであり、クリッピングの主な発生箇所ではありません。
    アサインの設定が間違っていても、音がどこにルーティングされるかが変わるだけで、ヘッドアンプやイコライザーの入力段で発生する歪みそのものは説明できません。
  • パン
    パンは、ステレオの左右のどちらにどれくらい信号を振り分けるかを決めるコントロールです。
    パン位置によって片側だけレベルが高くなるといった現象は起こり得ますが、今回の問題文にある「フェーダーを20dB以上下げるほどの大音量」や、「ヘッドアンプやイコライザーで歪む」という現象を説明するものではありません。パンの設定だけが原因で、このような大きな歪みが発生するとは考えにくいです。
  • 以後
    「フェーダー以後」は、フェーダーの後段にあるバスやマスターフェーダー、アウトボード、レコーダーの入力などを指す位置づけになります。
    しかし問題文では、具体的に「ヘッドアンプやイコライザーで歪む」と書かれており、これらは通常、チャンネルフェーダーより前に配置されます。このため、「以後」を選ぶと信号の流れと整合しません。大きな入力が来たときに最初に悲鳴を上げるのは、フェーダーの後段ではなく、その前段にあるヘッドアンプやイコライザーである、という設計上の前提を押さえておく必要があります。

実務・DTMへの応用

この問題は「ゲイン・ストラクチャをどこで管理するか」という話に直結します。オーケストラやダイナミックレンジの大きい音源を扱うとき、まず意識すべきはフェーダー位置ではなく、ヘッドアンプや入力段のゲインです。
最小音に引っ張られてゲインを上げ過ぎると、フォルティッシッシモで簡単にオーバーします。だから、レベル設定は最大音量(ピーク)を基準に、十分なヘッドルームを確保しておく必要があります。

この考え方はDTMでも同じです。オーディオインターフェースのインプットゲインが高過ぎて入力メーターが真っ赤になっている状態で、DAWのチャンネルフェーダーだけを下げてもクリップは解消されません。また、複数のプラグインを順番に挿している途中で、コンプレッサーやイコライザーの「入力段」だけがオーバーしているのに、チャンネルフェーダーやマスターフェーダーで帳尻を合わせようとするのも同じ失敗パターンです。

実務的には、まず入力段(ヘッドアンプやインプットゲイン)で最大音量に対して十分な余裕を確保し、その上でフェーダーは「ミックスのバランスを取るためのツマミ」と割り切るのが安全です。大きなダイナミックレンジの素材ほど、この「フェーダー以前」の意識が合否を分ける、と覚えておくと試験でも実務でも役立ちます。

過去問出題年・関連リンク

出題年度:現在調査中(後日追記予定)

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