今回は、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第1問】で問われた、オーケストラ収録時の補助マイク(スポットマイク)とアンビエンスマイク(Ambience Microphone)に関する問題を扱います。
この問題の本質は、「それぞれのマイクが何を狙っているのか」と「その狙いに対してどんな指向性がふさわしいのか」をきちんとイメージできているかどうかです。
記事を読み終える頃には、
- 補助マイク=どの楽器をどう“ピンポイント”で拾いたいのか
- アンビエンスマイク=ホールの響きや客席側の空気感をどう“まとめて”収音するのか
を具体的な音のイメージとセットで説明できるようになるはずです。
それでは問題を解いてみましょう!
目次
過去問|2025年 ステップⅢ 第1問
今回の問題は、サウンドレコーディング技術認定試験【2025年 ステップⅢ 第1問】をベースに、学習用として一部アレンジして出題しています。
この試験は「定番テーマ」が形を変えて何度も出題される傾向が強く、過去問を押さえることが合格への最短ルートと言えます。
問題=答え|暗記用ワンフレーズ
オーケストラ収録の補助マイクの指向性=単一指向性
※狙ったパートだけを“スポット”で拾う
対話講義(Q&A)|オーケストラ収録の補助マイクとアンビエンスマイク
タカミックス
先生、今回の問題なんですけど……。
「補助マイクの指向性は単一指向性が適している。」っていう選択肢が正解ですよね?
サウンド先生
そうだね、それが正解だね。
タカミックス
なんとなく「補助」って聞くと、広く全体をフォローするイメージがあるから、全指向性でも良さそうな気がしちゃうんですよね。
サウンド先生
そこが引っかけポイントなんだよ。
ここで言う補助マイクって、実務的には「スポットマイク(Spot Microphone)」のことを指すことが多いんだ。
タカミックス
スポットマイク……って、ソロ楽器とか特定のパートだけを近くで拾うマイクですよね?
サウンド先生
その通り。たとえばオーケストラで、
- ソロ・バイオリン
- コンサートマスター
- 管楽器セクションがちょっと弱いときの補強
みたいに、「このパートをもう少し前に出したい」というときに、補助マイク=スポットマイクを立てる。
タカミックス
なるほど。じゃあ、周りの音をあまり拾ってほしくないから、単一指向性(Cardioid)が向いている、ということですか?
サウンド先生
そうそう。単一指向性なら、狙った楽器の方向からの音をメインで拾って、隣のパートやホール壁からの反射音はある程度抑えられる。
だから「補助マイクの指向性は単一指向性が適している。」が筋の通った答えになる。
タカミックス
じゃあアンビエンスマイクはどうですか?
選択肢に「アンビエンスマイクの指向性は単一指向性が適している。」っていうのもありましたよね。
サウンド先生
アンビエンスマイクは、ホール全体の響きや客席側の空気感を拾う役割だから、むしろ広く音を集めたいんだ。
だから実務では、
- 全指向性(Omnidirectional)
- もしくはステレオペアで広がりを出す指向性パターン
が選ばれることが多い。単一指向性で一点を狙うのは、アンビエンスの目的とはちょっとズレる。
タカミックス
なるほど、「スポットで狙うのが補助マイク」「空間全体をすくい取るのがアンビエンスマイク」っていう役割の違いが、指向性の選び方にそのまま出ているわけですね。
サウンド先生
そのイメージがしっかり頭の中にあれば、この手の問題はかなり楽になるよ。
「何を、どこから、どのくらいの範囲で拾いたいのか」をセットで考えるクセをつけておこう。
タカミックス
了解です。
補助マイク=単一指向性でピンポイント、
アンビエンスマイク=広く空間の響きを拾う、というイメージで覚えておきます。
詳しい解説
一問ずつ正解を覚えることも大事ですが、「なぜその選択肢を選ぶのか」という筋道を理解しておくと、別パターンの問題にも強くなります。
ここでは、答えにたどり着くまでの考え方を整理しながら、似たテーマの問題にも応用できるようにしていきましょう。
結論の整理
2025年 ステップⅢ 第1問の正解
補助マイクの指向性は単一指向性が適している。
一言まとめ
補助マイクは特定パートを“スポット”で狙うので、単一指向性で周囲を拾いすぎないことが重要。
なぜその答えになるのか(メカニズム)
オーケストラ収録では、基本となるのはメインマイク(メインステレオ)です。
ホールの中央付近や指揮者の少し後ろ上方などに立てて、オーケストラ全体のバランスとホールの響きをまとめて収音します。
一方、補助マイク(スポットマイク)は、
- メインマイクだけでは音量バランスが足りないパート
- 音色を少し前に出したいソロパート
をピンポイントで補強する役割を担います。
ここで単一指向性(Cardioid)の特性が効いてきます。
単一指向性は、
- 正面の音を強く拾う
- 横・後ろの音をある程度抑える
という指向性を持っているため、狙った楽器からの直接音を多く取りつつ、隣の楽器やホール反射を必要以上に拾わずに済みます。
もし補助マイクに全指向性を使ってしまうと、
- 狙った楽器の音
だけでなく、 - 周囲の楽器の音
- 天井や壁からの反射音
も同じように拾ってしまい、メインマイクとの混ざり方が濁りやすくなります。
結果として、
- どの楽器を補強したかったのか分かりにくくなる
- ステレオ像がぼやけやすくなる
という状態になりやすいので、「スポットで狙う」補助マイクに全指向性はあまり向きません。
この「役割と指向性のセット」が理解できれば、試験で見たときに
補助マイク → 単一指向性
という組み合わせを自然に選べるようになります。
他の選択肢が誤り(または優先度が低い)理由
❌【誤り】:補助マイクの指向性は主に全指向性が適している。
補助マイク=スポットマイクは、「狙ったパートだけを前に出したい」という用途です。
全指向性(Omnidirectional)はどの方向からの音も均等に拾うので、狙った楽器だけでなく周囲のパートやホールの響きも同じように入ってしまいます。
これでは補助マイクを立てた意味が薄れ、メインマイクとの明確な役割分担ができません。
❌【誤り】:アンビエンスマイクは主にダイナミックタイプが適している。
アンビエンスマイクは、ホール全体の響きや客席側の空気感を収音するのが目的です。
そのため、
- 感度が高く、微小な響きも拾いやすい
- 広い周波数帯域をなめらかに収音できる
コンデンサーマイクを用いることが一般的です。
ダイナミックマイクは丈夫で扱いやすい反面、
- 感度が低め
- 高域の伸びがコンデンサーほどではない
ことが多く、ホールの繊細な残響を拾う用途には優先度が下がります。
したがって「主にダイナミックタイプが適している」という表現は適切ではありません。
❌【誤り】:アンビエンスマイクの指向性は単一指向性が適している。
アンビエンスマイクは、空間の響きや観客席方向の音を「広く」収音する役割のため、
- 全指向性
- または広がりを考えたステレオアレイ
を使うのが自然です。
単一指向性で一点を狙ってしまうと、アンビエンスマイク本来の「空間全体をすくい取る」という役割から外れてしまいます。
そのため、この選択肢も不適切です。
実務・DTMへの応用
DTM環境でも、生ドラムをスタジオで録音したり、ドラム音源で「マイクの役割」を意識してミックスする場面があります。
ここでは、ドラム録音に絞って今回のメインマイク/補助マイク/アンビエンスマイクの考え方を応用してみます。
メインマイク = ドラム全体のバランスと空間を捉えるオーバーヘッドのステレオマイク
補助マイク = キック、スネア、タムなどの近接マイク(スポットマイク)
アンビエンスマイク = 部屋の響きを拾うルームマイク、またはドラム専用リバーブのリターントラック
というふうに役割を分けて考えると、
「どのマイク(トラック)がキット全体の骨格を作っているのか」
「どのマイクがアタックや抜けを足す役割なのか」
「どのマイク/リバーブが空間の広がりを担当しているのか」
がイメージしやすくなります。
例えば、
・オーバーヘッド(メインマイク)は、ドラム全体のバランスとシンバルの広がりを重視して、
EQやコンプレッションは控えめにして“全体の絵”を決める。
・キックやスネアなどの近接マイク(補助マイク)は、
アタックや芯を強調する方向でEQやコンプレッサーをしっかり使い、
必要に応じてパンで定位をはっきりさせる。
・ルームマイクやドラム用リバーブのリターン(アンビエンスマイク)は、
ステレオの広がりやプリディレイを調整して、
「部屋鳴り・包まれ感」だけを足すイメージでミックスに混ぜる。
こうやってドラム録音を分解して考えると、
今回の試験テーマである「メインマイク/補助マイク/アンビエンスマイク」の役割が、
実際のレコーディングやDTMミックスの作業と頭の中で結び付きやすくなります。
過去問出題年・関連リンク
出題年度:現在調査中(後日追記予定)



