今回のステップⅡからは、音の物理的な仕組みそのものではなく、**実際の現場でどのように音を扱うか──つまり「実務的な音響処理」**がテーマになります。
そのステップⅡの第一回目は「低音が響いてなかなか止まらない」「壁に吸音材を貼ったのに、まだこもる感じがする」──そんな低音の扱い方についてです。
実はその原因は音の“波長”にあるのです。
では、その波長について、まずは問題を解いてみましょう。
2025年問題ステップⅡ問題1
今回の問題はサウンドレコーディング技術認定試験の【2025年 ステップⅡ 第1問】をアレンジして出題しております。この試験では定番テーマの再出題が多く、過去問学習が最短ルートとなっております。
対話講義(Q&A)|防音と吸音の違い
タカミックス
先生、今回の問題なんですけど、直感で「分厚い板」とかで防げるんじゃないかと思うんですけど?
サウンド先生
いい視点だね、タカミックス君。確かに“分厚い板”を立てれば音を通さない──つまり「防音」にはなる。
ただし正確に言うと、それは「遮音(しゃおん)」なんだ。
タカミックス
え、遮音?防音“には”なる?
サウンド先生
防音という言葉は“音をどうにかしたい”という全体の対策をまとめた言い方なんだけど、実際の中身は大きく2つある。
ひとつは「遮音」──音を通さない、音を反射させることによって外に出さない、入れさせないことだ。
もうひとつは「吸音」──音を中で減らす、つまり音のエネルギーを消す。
今回のテーマは後者、「吸音」だ。
タカミックス
なるほど、防音には変わりないけど、遮音と吸音は別物なんですね。
サウンド先生
その通り!遮音は音を“反射”させて止めるのに対し、“吸音”は音の運動エネルギーを粘性摩擦や熱伝導によって“熱”に変えて減らすんだ。
この仕組みを作るのに役立つのが「多孔質材」。グラスウールやウレタンフォームのように、空気が通り抜けられる細かい穴や繊維の“迷路”を持っている。

音がその迷路を通るうちにエネルギーを少しずつ熱として散らす──ここが吸音の核心だ。
タカミックス
多孔質材で“熱に変えて減らす”って言われても、ピンと来ないんです。音と熱って繋がらないんですが…
サウンド先生
いい質問だ。まず確認しよう──音は空気の粒が前後に小さく揺れる“運動エネルギー”なんだ。
この揺れが耳に届くと音として感じることとなる。
ここまでは大丈夫かな?
タカミックス
はい、“空気の揺れ=運動エネルギー”ここまではOKです。
サウンド先生
よし。多孔質材はその揺れる空気が通るとき、繊維にこすれて粘性摩擦が起き、さらに圧縮や膨張でわずかな熱伝導が発生する。
その結果、空気の運動エネルギーが少しずつ熱に変わって失われていくんだ。
タカミックス
なるほど…
サウンド先生
音が運動→摩擦そして熱という流れなのだが、その音から発生する熱はごく微量だ。
小数点以下5桁、6桁単位の温度上昇で、人間には感じ取れない。
でも“音としては戻ってこない”から、吸音材に当たった音は静かに消えるように感じるんだ。
タカミックス
跳ね返すんじゃなくて、“中で擦り取って弱くする”イメージですね。
サウンド先生
そのとおり。吸音は「音を減らす」ことであって、遮音(=音を止める)とは方向がまったく違う。
そして今回の問題──「低音域の波長の長い音を吸音するには?」の答えは、分厚い板でも重いブロックでもなく、「空気層」だ。
タカミックス
空気層ですか。理屈では分かりますが…
サウンド先生
イメージとしては、スピーカーから出る低音が大きな波だとしたら、薄いタオルをかけたくらいでは低音の波は吸収できない。
厚い布団やソファのような“厚み”と、その後ろに少し空間──つまり空気層があることで、やっと低音の波を吸収=吸音効果が出るんだ。
タカミックス
なるほど…
サウンド先生
壁との間に空気層をつくることで、実際の厚み以上に音のエネルギーを減衰させられる。
「波長に見合った十分な厚みを持った吸音面」──空気層が正解となるわけだ。
音楽現場での吸音について
サウンド先生
さて、ここまでで「吸音とは何か」「なぜ空気層が必要か」を理解できたと思う。
今度は少し視点を変えて──実際の音楽の現場では、吸音をどう扱っているのかを話してみよう。
タカミックス
現場での吸音……ですか?
スタジオとかリハーサル室の話ですよね?
サウンド先生
そう。試験問題では“原理”を問うけれど、音楽の現場では“響きのコントロール”が目的になる。
つまり、音を全部吸うのではなく、どれくらい残すかが大事なんだ。
タカミックス
残す、ですか? 吸音って減らすことじゃないんですか?
サウンド先生
確かに減らす行為なんだけど、減らしすぎると逆に音楽的にマイナスになる。
たとえば低音を全部吸ってしまうと、ベースやキックの手応えがなくなって、演奏が“軽く”感じてしまう。
反対に、吸音が少ないと低音がこもって“もわっ”とする。
だから現場では──吸音は「消す」ではなく「整える」ために使うんだ。
タカミックス
なるほど……全部吸うとデッドすぎるってことですね。
サウンド先生
そう。理想は“適度な吸音+少しの反射”。
具体的には──
- 角や壁際に“ベーストラップ”を置いて低音の滞留を防ぐ。
- 壁の一部だけ吸音材を使い、他の部分には拡散板を配置する。
- 空気層を利用して、低音は緩やかに吸い、中高音は自然に残す。
こうすれば、音がデッドすぎず、でも濁らない空間が作れる。
タカミックス
たしかに…
サウンド先生
市販の吸音材とかを壁一面にベタ貼りするのは、フラッターエコー(高域の反射)を消すには有効だけど、中高域だけが死んで低音が残る。
結果、モコモコした音になる。
だから空気層を空けて設置したり、貼る場所を選ぶのが正解なんだ。
タカミックス
なるほど……「静かにする」じゃなくて「整える」。
低音を吸いすぎず、全体の響きをバランスよくするわけですね。
サウンド先生
その通り。
吸音の本質は“コントロール”。
音を全部殺すのではなく、暴れを抑えて心地よい響きを残す──それが音楽現場での吸音なんだよ。
まとめ
- 防音=遮音+吸音。遮音は反射で止め、吸音は熱に変えて減らす。
- 吸音には多孔質材が有効。音の運動エネルギーを摩擦・熱で失わせる。
- 低音を吸うには「空気層」が必要。分厚い板では遮音になるだけ。
- 音楽現場では“消す”より“整える”が目的。
- 理想は「適度な吸音+少しの反射」で、響きをバランス良くコントロール。
過去問出題年
検証中(今後追記予定)
